「葛藤」「家族」、そして「青春」。
一人の人間になるために必要なものすべて(3/3)

自ら生み出した作品で多くの人を喜ばすエンターテイナーの二人。宮藤官九郎さんと又吉直樹が、実はいちばん楽しませているのは家族だったというほっこりエピソードにたどり着き、和やかな空気が流れた夜の会議室。話は最後の話題「青春とは何か」に向かいながら、二人の言葉のキャッチボールは静かに熱を帯びて、加速していく。何かに打ち込む人、何かを生み出す人を後押しする「青春」の定義とは?
(2020年3月14日収録)

「葛藤」「家族」、そして「青春」。一人の人間になるために必要なものすべて(1/3)はこちら

「葛藤」「家族」、そして「青春」。一人の人間になるために必要なものすべて(2/3)はこちら
 

仲間とのちょうどいい関係は
役割を越えないことで成り立っている

又吉 宮藤さんが作と演出を手掛けている舞台「ウーマンリブシリーズ」でも、自分のことは取り入れないようにしているんですか?

宮藤 「ウーマンリブシリーズ」では、普段考えていることがダイレクトに出ちゃう。むしろ、そこに蓋をしなくていいかなと思って出してるというか。同じようなことを言ったとしても、前より上手くなっているし、見せ方がうまくなってる。エグみがない感じにできていると思うから、そのまま出しちゃいますね。ここ最近は、新作の『もうがまんできない』では、出番を待っている間にどんどん相方を嫌いになって解散に追い込まれる芸人コンビが出てくる話を書いていて、そこで『人間』を読んだもんだから、自分が言葉にできていないことがいっぱい言葉になっていて驚きました。

又吉 ありがとうございます。コンビや仲間の間でも、理解しているけどちょっと首を傾げなきゃいけないことってあるんですよね。相方の綾部が出囃子が鳴って舞台に出る直前まで、舞台袖の鏡に近寄って髪型を見ていて、その後僕は一瞬ささっとしか鏡を見られないことがあって。まあ、髪の毛が一本変なふうに出てたら嫌だと思いつつ、別に僕の髪型が整っているかどうかでお客さんは何も思わんからいいんですけど、なんやろなって(笑)。

宮藤 綾部さんが鏡を見ている時間は長いんですね?

又吉 長いですね。でも、僕が「ちょっと見せてくれよ」って言うの、エグないですか?(笑) 恥ずかしいし、なんか重みがありすぎる。綾部が「ちょっとどいてよ」とか言って鏡を見るのは自然。その逆はあってはいけないようなことのような気がして。

宮藤 あはは、仲間同士の役割ってやつですね。昔、松尾スズキさんが僕の芝居に出てくれていた時に、なぜか稽古の時から毎回アドリブでボケを変えていたところがあって。それからある日、神妙な顔つきで「宮藤、ちょっとしんどいんで、あそこのセリフ決めてもいいかな」って言われて「いいですよ」って言ったら、そのことを後でコラムに反省して書いていて。「あれは言っちゃいけない重要な一言だった」って(笑)。

又吉 すごくわかりますね。綾部とあるネタをやっていて、漫才で一か所だけ僕の頭を叩くんですけど、それがめちゃめちゃ痛いんですよ。他のツッコミはそんな痛くないけど、そこだけ全体重かけてグンッて叩くんですよ。でもボケとして、「あのツッコミ、痛すぎるで」ってなんか言ってはいけない気がして。毎回舞台上で記憶飛びそうになる。結局言ったんですけど(笑)、一、二回修正されても、また痛くなってきて。でも、なかなか言えない。

言いたいことが言えない
不器用な距離感こそが青春の証

宮藤 それはコンビですね。お互いの間に挑戦があるってことが、ひとつの青春ですよね?

又吉 宮藤さんは青春をテーマにしたドラマも多く作られていますが、自分の中で青春が終わったなとか、逆に今も青春の中にいるなと、感じたりしますか?

宮藤 今、まさに終わりそうだなって思ってる(笑)。若い人たちの方が冷めていてドライだけど、どっちかって言ったらあちらが青春だし、おじさんの暑苦しさは青春じゃないんだよねと思ったり。俺はもう青春の中にいないよねと、ずっと感じ続けていくんだろうなって思ってる。

又吉 そうなんですね。まあ、青春の次のステージがありますからね。

宮藤 はい。去年うちの劇団の30周年を記念したイベントがあったんですが、メンバーみんながすごく仲良くて、ニコニコしていて、楽屋にいても普通に会話して。昔はもう少しギスギスしていたような気がしていたから、それを見た時に、「ああ青春終わったのかな」って思いました(笑)。

又吉 なんでですか?

宮藤 俺は、思っていることが言えないっていうことが青春だと感じていて。この間ラジオで聞いたんですけど、おぼんこぼんさんって仲悪いらしくて、おぼんさんが楽屋に来たらこぼんさんが出ていくんですって。これって、まだ青春が続いてますよね。


又吉 意外な青春の測り方(笑)。

宮藤 さっき又吉さんが話してくれた舞台袖の話も、又吉さんが60代になったら「鏡見るからどいてよ」って普通に言うと思うんですよ。今進めている台本の中にも書いているんですけど、知り合いと一緒に銭湯やサウナに行った時に、「あれ、俺この人の前で出していいんだっけ?」って思いません? 「この人と俺は出していい関係だっけ?」ってわからなくなって、なんか半分だけ出したりすることある(笑)。で、なんで半分出しちゃったのかなって思ったり。

又吉 あはは。全部隠していると、その人に壁を作ってしまうような気がしたり。

宮藤 そうそう。

又吉 逆に全部出していると、人によっては失礼に感じたり。

宮藤 ちゃんと隠せよってね(笑)。思っていることを全部言わないことは、お互いに期待しているし、期待しているから裏切られるし、裏切られるとがっかりして嫌いになる。でも、会わないと寂しくなるから会うけど、何を話していいかわからない。そんなギスギスが青春なのかなと思うんですよ。

又吉 その銭湯の宮藤さんは、まだ青春真っ只中にいますね(笑)。

宮藤 芝居もどこか似ていて、モニタで音聞いていて、全部受けてないことに俺は救いがあると思っていて。もちろんすべて面白いと思って物語を書いてるけど、100%全部受ける日はまだ来てないって思えることが、続けているモチベーションのひとつのような気がする。全部伝わったら、それこそ青春が終わっちゃうんじゃないかってどこか思っていて。

又吉 なるほど、面白いです。僕らはまだまだ青春が続きそうですね。

構成・文/力石恒元
撮影/越川麻希
 

宮藤官九郎
1970年宮城県生まれ。松尾スズキが主宰する劇団「大人計画」に所属し、俳優として活躍するかたわら、脚本家、演出家、映画監督、ミュージシャンとさまざまな顔を持つ。脚本を担当した主な代表作はドラマ『木更津キャッツアイ』『ゆとりですがなにか』『監獄のお姫さま』、映画『謝罪の王様』『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(監督も)『パンク侍、斬られて候』など。2013年上期の連続テレビ小説『あまちゃん』では、2013年新語・流行語大賞のほか、さまざまな賞を受賞した。2019年は、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』の脚本を担当。
http://otonakeikaku.jp/stage/2020/womens14/

又吉直樹
1980年大阪府生まれ。2003年に、綾部祐二とお笑いコンビ「ピース」を結成。芸人のほか、俳優やコメンテーターとして活動の場を広げ、2015年に中編小説『火花』(文藝春秋刊)で純文学デビューを果たす。同年、お笑い芸人として初めて芥川賞を受賞し、単行本の発行累計部数は300万部を超えた。その後に執筆した著書『劇場』(新潮社刊)も注目を集め、この度映画化される。2019年10月に最新作『人間』(毎日新聞出版刊)をリリースし、話題を呼んでいる。

書籍情報

『人間』 又吉直樹 著

出典: 毎日新聞出版

僕達は人間をやるのが下手だ。
38歳の誕生日に届いた、ある騒動の報せ。
何者かになろうとあがいた季節の果てで、かつての若者達を待ち受けていたものとは?
初の長編小説にして代表作、誕生!!
定価:本体1,400円(税別)
発行:毎日新聞出版

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