ケータイよしもとで連載していた人気コラム、『ゆにばーす川瀬名人の認定戯言』がラフマガで復活しました。
川瀬名人の「戯言」にお付き合いください。

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小学生のゲームで起きたまさかの“インフレ”…その真相とは【ゆにばーす川瀬名人の認定戯言#4】

タイトル『108日』

ハリウッド映画を日本で公開する時ヒットさせるために無理矢理変えた映画のタイトルではない。

劇場が客入れをやめてから再開するまでの日数である。
季節も気付けば冬から春を通り越してしまった。

マネージャーが消すのが面倒だったのか、共有しているGoogleスケジュールには108日分の仕事の予定が今尚びっしりと書かれているのを見ると喪失したモノの重みが沈殿しているようだった。

ここから実際に客入れをして劇場運営していく訳で、芸人もスタッフも社員も心なしか意気揚々としている。テンションを抑えている芸人も心なしか以前より衣装に着替える時間が早いのが何よりの証拠である。

無論、川瀬も嬉しくないといえば嘘になる。
笑い声がない状態ではデータも満足にとれないし笑ってもらうために日々考えを尽くしているのだから金だけもらって客無しで配信していても意味は全くない。

が、果たして、このように楽観的でいいのだろうかとは思ってしまう。

ABCグランプリやTHE W、キングオブコントが開催を決定し、M-1が開催される確率もグンと上がった。

上がったはいいが、具体的な開催方法が全く見当もつかない。

アクリル板漫才にいつまでも文句ばかり言うのもどうかと思うが、我々が適応したところで見ているお笑い好き達が適応できるのか。アクリル板と距離の違和感に。

それにコロナ第二波、第三波が来ない保証などどこにもない。言ってしまえば局員やスタッフがかかってしまえばもうM-1の開催の可能性など一瞬で吹き飛ぶかもしれない。

それに劇場が再開したからといって劇場の収益がどれほど上がるのかという問題もある。

劇場に客入れするのは金土日のみ。
しかも総キャパ数の10%程度の人数しか入れられない。
あとは平日はもっぱら配信のみ。

コロナ前なら下手すると一つの劇場につき一日5公演。
それが関東エリアだけでもルミネ、∞ホール、幕張、大宮など各所で催されていたが、今回の劇場再開にあたってこれほどの公演枠数は確保されない。
では、この限られた公演の枠でライブができるのは誰なのか?

この度、客入れとは別に有料配信チケットを販売する。
これは配信を有料化するためのもので、ライブチケットより値段は安く24時間以内ならアーカイブも見られる。おまけに席数が無限なので劇場の最大キャパ数を上回る枚数を販売することが可能になる。

つまり2400円のチケットを劇場のキャパ300人に売るより
1200円の配信チケットを600枚以上売れる芸人はそれだけで相当に貴重である。

ということはどういうことなのか。
もう本当の人気者以外はライブに出られる見通しはなかなかに立ちづらいということである。

今まで劇場のランキングシステムにおいて最下層および中間層に位置する芸人にはチケットのノルマ買取があり、それによって客が入らなかった場合の補填が行われていた。客は5人しか入ってないがチケット自体は芸人が買い取っているため見えない客が200人以上入ってる計算になる日も少なくなかった。

が、この経営手法も配信が中心になった場合、容易に使えない。
特に一年目の芸人達や最下層に位置する芸人達は出演することすら難しくなるのかもしれない。

が、これは劇場運営として当然のものであるしなんの結果も出ていない芸人がタダで立派な音響照明、そして舞台を使おうなんてのは虫のいい話でありシステムを批判する気はない。

経営を考える上でこの流れは避けられないものでこの108日間の赤字を補填するためにも当然の方針であると考える。

つまり今まで以上にメディア露出や賞レースにおいての戦績、SNS、動画メディアを使っての戦略を本気で考えていかないと、とてもじゃないが売れる売れないどころか芸人をやっていくことさえままならない。なんせライブに出られないのだから。

正直、このタイミングで今年吉本の養成所に入ってきた人達はイカれてらっしゃると思う。

我々ゆにばーすですら人気があるとはとても言えない。
少数の優しく愚かなファンの方に支えられているだけであり、この経営方針がある以上、劇場が再開したところで出番数の減少は避けられず劇場至上主義芸人である我々の元の収入を取り戻すことはとてもかなわないであろう。

そう、M-1決勝に2回いった芸人ですら知恵を絞り明日へ挑み本気で生き方を考えなければピンチになる状況であり、この先の将来を予想してみるものの先が全く読めない。

この全く読めない状況で必要なのはただ前向きになることなのか?
それともネガティブに考え慎重に行動することなのか?
訳知り顔で副業で収入を確保することなのか?

川瀬は覚悟と決断であると思う。

覚悟と決断だけ。
こういう状況で自分が何をやって生きていくかという覚悟。
この先世界がどうなってもそれをやれるうちはやるという覚悟。

皆さんが覚悟を人生で決めた瞬間というのは意外に少ないと思う。
それが受験の時か就職の時か結婚の時か自身の子供の生まれた時なのか。

迷う期間も大事かもしれないが結局覚悟を決めて進まぬ内に状況はどんどん進み、後手後手になる。

その覚悟を基盤に前向きになるもよし、慎重に動くもよし。
大事なのは覚悟を決めて腹を括る、この一点のみである。

これはこの108日間、家にいて考えた結論である。

今現在、川瀬は芸人5人でルームシェアをしている。

川瀬ですらとても売れているとは言い難いが
残りの4人はもう売れるとか売れないとかいう以前の問題で
吉本興業の商品棚はおろかバックヤードにすらいるのかもわからぬ状態で、売れるということに関して現実味がなさすぎる状態に陥っている。

富士山の麓から頂上は見上げられないように、2合目まできて4合目が、4合目まできて6合目が、といった具合に段階を踏まないと売れる現実味も湧いてこない。

そのためにもこの自粛期間中に何をするのかということは今後の芸人人生に大きく関わってくる。

が、この4人は見事に暇に飲み込まれ
特にお笑いをやることもなく夜中はウイニングイレブンに興じ、朝寝て昼起きダラダラと携帯を弄って夕方バイトにいって、という大学生も真っ青の生活を送り続けていた。

1番苛立ったのはウイニングイレブンが体験版だったと知った時である。

とにかくこのままではいけない。
現在、川瀬1人で家賃を半分以上払っており家にウォーターサーバーまで置いているのはウイニングイレブンの体験版でよくわからん南米チームの使い方が上手くなるためではない。

皆にお笑いだけに集中しやすい環境を提供したかったからである。

そこで個別に面談をすることにした。

これからの世の中を生きていくためにどういう覚悟なのか。
川瀬でもライブが激減しているのに川瀬より知名度も人気も実績もない皆は恐らくこれから先まともなライブもない。主催したり他事務所ライブに出演することもなかなか厳しい状況で一体どう考えているのか。
お笑いをやり続けるのか否かも含め、その覚悟を問いただした。

全員同じ意志であった。

お笑いは続ける。目が覚めた。ありがとう川瀬。
皆そう言ってくれた。

川瀬も面談した甲斐があった。
この家を提供した甲斐もあった。
公共料金を毎月肩代わりしている甲斐も家具や調度品を揃えた甲斐もあった。
芸人と一緒に暮らしている意味を真の意味で初めて見出すことができた。

とにかく覚悟が聞けた。それがとても嬉しかった。

それから三日後、自分の部屋でウトウトしていると何やらリビングで騒ぐ声が聞こえてきた。

あいつら……
また性懲りもなくウイニングイレブンの体験版を……

本製品版を買うという覚悟もできない奴が……
どうしてこれからの世で芸人を続ける覚悟ができるというのか……

いきなり一喝してやろうとこっそり近づくと何やらゲームをしているのではなく話し合っているようだ。

そして何やら結論が出たらしい。

「よし、じゃあ川瀬抜きでYouTubeチャンネルやろう!
“同居あるある” ガンガンあげていこう!!」

無謀な覚悟ならいい。応援もしよう。

だが世はまさに大配信時代。

浅はかな覚悟は
断じて許してはならない。

川瀬はゆっくりリビングのドアを開け二度目の面談を行った。

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