1月に発売されたケツカッチン・高山トモヒロの新作『手のひらの赤ちゃん – 超低出生体重児・奈乃羽ちゃんのNICU成長記録 – 』(ヨシモトブックス)が今、感動で「涙が止まらない」として注目を集めています。

出典: ラフ&ピース ニュースマガジン
本書は、高山の仕事仲間である幸田敏哉さんから依頼を受け、早期出産のために325gという超低体重で生まれてきた敏哉さんの娘・奈乃羽ちゃんの成長を、つぶさに記録したドキュメンタリー。小さな体で懸命に生きようとする奈乃羽ちゃんと、それを全身全霊で支え続ける父・敏哉さんと母・佑里子さんの姿が、温かな視点で描かれています。
今回、この感涙必至の1冊を手掛けた高山に、ロングインタビューを実施。本書に込めたメッセージを改めて話してもらうとともに、次回作の著書の構想や、“芸人・高山トモヒロ”としての今後の展望についてなど、たっぷりと語ってもらいました。
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母・佑里子さんの涙を見て、僕も覚悟を決めました
――この本を書き始めることになったいきさつについて、改めてお聞かせいただけますか。
奈乃羽ちゃんの父・敏哉さんと母・佑里子さんが、僕に会いに来てくれて。「我が子の成長を記録してほしい」とお願いされました。佑里子さんが、僕が過去に書いた本の『ベイブルース 25歳と364日』や『通天閣さん ‐ 僕とママの、47年 ‐ 』を読んでくださったみたいで、「ぜひ、あの本を書いた高山さんに」と。どちらの本も、“命”をテーマにしているところがあるので、奈乃羽ちゃんのことが重なったのかもしれませんね。
2人で一緒に一生懸命(書いてほしいと)お願いするわけですよ。佑里子さんなんか、話してる最中、号泣されていて。その涙を見たときに、僕も覚悟を決めましたね。
――本書では、奈乃羽ちゃんのご家族のほかに、同じ病院で低出生児として生まれてきた双子の果穂ちゃん・真一くんのご家族、そして遥くんのご家族が登場します。この2つのご家族が登場することで、家族愛だけでなく、3つの家族の友情の物語にもなっていると思います。
(その2つの家族は)奈乃羽ちゃんのお父さん、お母さんが紹介してくださったんです。「こういう家族とも仲良くしてるんです、実は」って。
みなさん、“こういう本を出版したい”という敏哉さんと佑里子さんの思いを、すぐに汲んでくれて。やっぱり友達同士、通じ合うものがあったんだと思います。

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――高山さんの過去の2作は自伝的な内容ですが、今回は、取材に基づくルポタージュ。やはり、ご自身の体験を書くのとはまったく違う作業なんでしょうか。
うん、全然違いましたねぇ。こちらの勝手な思い入れで、わざと盛り上げるような文章を書くわけにもいかないし。自分の話やったらできるんですけどね、ちょっとドラマチックに書いてみたりとか(笑)。でも今回は、あくまでも事実に基づいて、ということなんで。そやからとにかく今回は、自分の思い入れとかはなるべく入れず、できるだけストレートに書こうと。そのほうが届くんとちゃうかなと思って。
――取材する中で、医学的な勉強もされたんですか?
そのあたりは、ネットで調べた程度で、お医者さんにはお話を聞いてないんです、実は。お医者さんの話が入ってきたら、医学的なことでページを使ってしまうことになるでしょ? 僕としては、それよりも、家族愛の大切さを伝えたかった。そっちにページを割きたかったんですよね、やっぱり。
子どもが成長するのは当然じゃない

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――ほかに、この本を書くにあたって気をつけたことはありますか。
どうしても、疾患状況の説明が続くところも出てくるんですけど、そこは読者の方々が読んでてしんどくならないようにしたいなと。だから深刻な状況の中でも、ちょっとでも光が見えてくるような、明るいエピソードを入れたりして。そこのバランスはすごく考えましたね。
やっぱり僕は、悲しい本じゃなく、明るい本にしたかったんです。だから取材でも、「オムツを替えようとしたら、看護師さんの手の甲をつねったんです」とかほっこりするような楽しい話をしてもらったときは、“あ~、よかったなぁ”って。うれしかったです。
――取材を続ける中で一番大変だったことは?
それはやっぱり、それぞれの赤ちゃんが亡くなったときですよね……。亡くなってからも取材は続けないといけないわけで、父母の方たちに悲しいことをもういっぺん思い出させることになるんで、そのときはものすごく辛かったですし、それを書くときも、ほんまにもう……涙で文字が進まなかったですね。
――出来上がった本は、それぞれのご家族に見ていただいたのでしょうか。
はい、出版社のほうから届けてもらって。みなさん、すぐに「ありがとうございます」とお返事をくださいました。果穂ちゃんと真一くんのお母さんは、「一気読みしました」っておっしゃってましたね。佑里子さんは「仏壇の前で、毎日少しずつ読み聞かせします」って言うてました。
――高山さん自身がこの本を書くことで学んだことは?
僕はこれまで、自分なりに家族を大切にしてきたつもりやったんですけど……もっともっと深く、心の奥底から大切にせなあかんなと思い知らされました。子どもが成長するということは、当たり前じゃないんだ、いくつもの奇跡が積み重なった結果なんだと。
――本書では、現在芸人として活躍している娘の光永さんが、赤ちゃんのときに大病されたというエピソードが出てきますね。
そうなんです。あのときは不安で不安で、僕も泣いたし、嫁も泣いたし、いろんなことを考えさせられたんですけど、結局2週間くらいで無事に退院できて。で、その後、生活していく中で、そのときのことを忘れてしまってたんですよね。退院できたときは、それこそ“奇跡が起きた!”くらいに思ったのに、いつの間にか“当然やん”って。
でも、この本を書かせていただくことで、そのときのことを思い出すことができた。というか、奈乃羽ちゃんたちが思い出させてくれたんやろうなって。「あなたたちが今ここにいられるのは奇跡なんですよ」「1日1日、ちゃんと感謝して生きなさい」って、奈乃羽ちゃんと、果穂ちゃん・真一くん、遥くんが教えてくれたんやと思います。
光永は今でも会うたら「パパ~」って抱きついてくる

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――ちなみに光永さんはこの本をお読みになられたのでしょうか?
あぁ、どうなんでしょう。もしかしたら読んでるのかもわからないですけど、まだその話をしてない。というか、会うてないんです。大阪と東京なんで。
――普段、光永さんとはどんなお話を? やはりお仕事の話はされるんですか。
仕事の話は、表面的にはしますけど。こうせえ、ああせえ、なんて言うたことないです。もう大人なんでね、自由にやってもらえたらなと。
普段は離れて暮らしてますけど、実は……こんなん言うたら、光永は嫌がるかもわからないですけど、今も全然会うたら「パパ~」って抱きついてくるんです。ほんまにもう、小学生のノリですよ。「お父さん」ですらなくて「パパ」ですから(笑)。よそでは、なんか“吉本坂46”とか言うて、かっこつけてるみたいですけど。
――高山さんはこの『手のひらの赤ちゃん』を、どんな人たちに読んでほしいですか?
“どんな人”って限定するんじゃなくて、本当に幅広くいろんな方に読んでほしいんですよね。例えばお父さんが1冊買ってくれたとしたら、通勤途中なんかに読んでいただいて、で、読み終わったらそれで終わりじゃなくて、次はお母さんに、その次は子どもに……っていうふうに、家族に順番に回してあげてほしいんですよ。その後家族で集まったときに、「あの本、読んだ?」「どう思った?」って、感想を言い合ってほしいなと。
――確かに、世代や立場が違うと感じ方も違ってくるかもしれませんね。
はい、そう思います。“命”とか、“家族愛”とか、はたまた“友情”でもいいんですけど、この本がそういったことについて家族で話し合うきっかけになったらいいなと思いますね。
――僭越ながら、本書を拝読していて思ったのは、高山さんは本当に文章がお上手だなと……。どうやって培われたものなのでしょうか。
いやいやいや。いつも「もっとセンスあったらなぁ」と思いながら書いてますよ(笑)。
僕が子どもの頃、お父さんが廃品回収の仕事をしてたんですけどね。古本だけは、古本屋さんに持っていったほうが少し高く値が付くんで、いったん家に持ち帰ってきてたんです。で、僕、それをよう読んでたんですよ。家で暇を持て余して、お小遣いもないし、どこも行かれへんから。お父さんが今度古本屋に持っていくって言うてたからこれでもちょっと読んでみよう、って。もしかしたら、それがきっかけかもわからないですね。今思うと。
“芸歴30年の軽み”を出していきたい

出典: ラフ&ピース ニュースマガジン
――今後もこうしたドキュメンタリーを書きたいという思いはありますか?
う~ん……1年くらい経ったら書きたくなるのかもわからないですけど、今の時点では思わないです(笑)。人の話を聞いて書き上げるのって、こんなにしんどいんやと思いましたから。
――では、次回作の構想は?
実は今、何となく漠然と見えてるものがあって。それが、きちっと“これでいけるな!”って確信を持てるところまで来たら、一気に書き始めようかなと思ってるんですけどね。
今は、浮き沈みの激しい人生を送ってる人の話を書きたいんです。それも1人じゃなく、2人、ないし3人。で、そこは結局取材をすることになると思うんですけど、その人たちの人生を描いておいて、最後、その2人ないし3人の人生を、創作でつなげるっていう。要は、その人たちの未来を僕が先に描いてしまおう、と(笑)。で、書き上がったら、本人らに見せて、「あなたたち、ほんまにこうなったらええよね」っていう。そういうことをやってみたいなと思ってるんです。
――その2、3人の主人公の中には、お笑い芸人もいるんでしょうか。
うん、芸人が1人おってもいいですよね。芸人1人、町工場で働いてる人が1人、で、裕福に暮らしてる金持ちが1人、みたいな。それがひとつにつながったらおもろいかなって。
――では最後に、高山さんの“芸人”としての今後の展望をお聞かせください。
そうですねぇ……今まではどこか、“気ぃ張って生きていかなあかん”と思ってたんですよ。けど、今この年齢(51歳)になってみるとね、“ポップ”になりたいなって。つまり、“芸歴30年の重み”やなくて、“芸歴30年の軽み”を出していこうと(笑)。若い芸人の子たちにとって、“絡みやすいおっさん”でいたいなって思うんです。
ほんまに今や、何十歳も下の子と一緒に仕事することも多くなってきていて。娘よりも年下の子らが今、芸人でバリバリやってますからね。そうなると、この子らにイジってもらったほうが、絶対おもろいやないですか。僕自身もおいしいし(笑)。
普通、僕ぐらいのキャリアがあると周りが立ててくれるんですよね。僕がMCやってるイベントとかでも、僕が何気なく言うた一言にも、若手の子たちはめっちゃ頑張って笑ってくれるんです(笑)。でも僕としては、そこは「しょうもないこと言うな!」とか「時代遅れや、おっさん!」って言うてもらいたい、っていうのがあって。
――いじられることも厭わないと。
そうです、ウェルカムですね。心のドアは常に開けるようにしてます(笑)。だから今、ほんまに仕事が楽しくて。「たとえが昭和!」とかツッコまれたらうれしいですもん(笑)。
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高山の手で、3家族の思いが綴られた本著。この本をきっかけに、家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。
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高山トモヒロ・著
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