歴代最高の681点(審査員7人での得点)を叩き出したミルクボーイ(駒場、内海)が優勝して幕を閉じた『M-1グランプリ2019』(ABC/テレビ朝日系)。

長い歴史の中でも「レベルが高かった」と評されることの多い今大会について、『M-1グランプリ2008』王者はどう見たのか? 『岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で「『M-1』答え合わせ」が話題となったNON STYLE・石田明に、熱の冷めやらぬ大会翌日に話を聞きに行きました。石田は言葉を選びながら真剣に語ってくれています。1組ずつ詳しく聞いたので、じっくりとご覧ください!

ベテランから若手までひしめきあった前半5組

ーー今大会をご覧になって、石田さんはどのようなことを感じられましたか?

ハイレベルでしたよね。面白かったですし、何回も手を叩いて笑いました。レベルが高すぎてちょっと引いています。

ーー(笑)。笑神籤(えみくじ)により、ニューヨーク(屋敷、嶋佐)さんが1番となりました。彼らはトップバッター以上の役割を担ったと思いますが、いかがですか?

©M-1グランプリ事務局

ニューヨークは歌ネタなんで、1番は引きたくなかったと思うんですよ。でも、歌ネタであそこまでの高得点を取れるのはすごい。例年よりもだいぶ基準が高かったのもあって、すごい滑り出しやなって思いました。かまいたちが次にボーンって(点が)いくからちょっと薄れてしまいましたけど、トップバッターであれだけ取れたのはさすがです。

ーー審査員の松本人志さんと屋敷さんの絡みで、さらに会場の緊張がほぐれたような気がします。

印象には残しましたよね。あそこにニューヨーク節があったので、良かったんじゃないですかね。試合には負けましたけど、勝負には勝った感じがしましたけどね。

ーーかまいたち(山内、濱家)さんは2組目で、かなりの高得点(660点)を取られました。

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すごいっすよね。漫才界の正道会館というか(笑)。他の芸人が独特なネタを持ってこようが、独特な技を習得してこようが「あの正拳突きには勝たれへんわ」みたいなイメージです。2人ともうまいですし、ここ何年かで濱家が明るくなったことが、かまいたちの印象をグッと上げたと思うんですよね。いい負け役になれるし、お客さんと共有しやすいテンションになれているし、かまいたちの中で革命があったんかなって思います。

ーーそのあたりの技術は経験で得られるものなのでしょうか?

どれだけお客さんを“笑いやすい状態にするか”ってことに、すごく注意点を置いているから、お客さんに問いかける方向に落ち着いたんやと思いますけどね。あれ(問いかけること)は、漫才としてよくあることなんですけど、賞レースでやることがあんまりなかったんですよ。それを堂々とやりきりましたし、スキルがあるからこそ出来ることやと思います。

ーーその後、和牛(水田、川西)さんが敗者復活から勝ち上がってきました。

©M-1グランプリ事務局

あれだけのクオリティーの漫才を“よく毎年作り上げてくるな”っていうのが、脅威でしかないです。これから『M-1』出るかどうか分からないですけど、このモチベーションを持っといてほしいなって思います。『M-1』じゃなくてもいいんですけど、毎年、和牛の漫才は見たいなって思えるネタでしたね。

ーー今年も会場、審査員、視聴者、すべての人を魅了したネタでしたね。

(映画『スターウォーズ』の)ダース・ベイダーが、なぜダース・ベイダーになったかっていう流れをゼロから見ている感覚でした。「なんでこうなってしまったか」って納得できる前半の作りがあって、後半に繋がるっていうのがね。(本人たちも)「感情を意識している」って言うてたので「なぜこうなりうるのか」ってことが的確に表現されていてすごいなと。

ーー今回は、直前まで会場外にいて、即漫才をするという試みもありました。

敗者復活でやったネタと(本番は)変わっている部分もあったじゃないですか。同じネタやけど、“テレビで放送されているし”って自分らの中で、いろいろ考えて隠し持っていたものなのか、他のネタのやつを入れたのか分からないですけど、行くべくして決勝に行く人らやったんやなって思いましたね。

ーー芸歴15年選手の2組のあとは、すゑひろがりず(三島、南條)さんでした。

©M-1グランプリ事務局

面白かったですね。僕らも(『M-1』で)リップ使った時にありましたけど、「物を持つのがどうやこうや」ってあるじゃないですか。これに関していうと、そういうキャラクターでスタートしたわけやから、体の一部みたいなものなんで問題ないと思います。ショートコントとして見られても仕方がない作りなんですが、それを“漫才に見せたい”っていう2人の心意気を感じたネタでした。

ーーやはり、設定も秀逸だったんですかね。

言葉が難しくて変わったことをするからこそ、なるべく広い世代に理解してもらえる設定を選んだと思いますけどね。こねくりまわした設定だと(観ている人は)全然入ってこないと思うんですけど、より平らなキャンパスに、あの子たちが色んなものを置いていった感じかなと思います。

ーー続いては、まだ結成して6年のからし蓮根(伊織、杉本)さんです。

©M-1グランプリ事務局

すゑひろがりずが出た後やから、あんまり伊織のキャラクターが目立たなかったんですけど、本来、伊織ってスゴいドギツいキャラクターっていうのもあって、“ここ(順番)引いてもうたか”って思いました。だからエンジンかかるのがちょっと遅かったですけど、ネタの作りはしっかりしていましたからね。

和牛もそうですけど、ボケが表現しきれへんところをツッコミが手伝うっていうのが最近主流になってきはじめていて、それがほんまにウマいコンビやなって思います。あんだけキツい言葉を言っても楽しい雰囲気に出来るのは、協力型の漫才やからこそなのかなって気はしました。

ーー最後の畳みかけは圧巻でした。

あれで相当加点されたでしょうね。僕、あのネタを賞レースの審査員で見たことがあるんですけど、そん時も一番最高得点でした。今回でいうと、関西以外の人からすると知らんコンビやから、普段大阪でやっている時よりも、返り(笑い)が思ったより来てなかったと思うんですね。それでちょっとあせったところもあったと思うんですけど、如実に実力は上がっているので、今後『M-1』を背負ってくれることは間違いないなって思います。

群雄割拠の後半戦!

ーー6組目は見取り図さん(盛山、リリー)です。昨年の借りを返した印象があります。

©M-1グランプリ事務局

毎回思うんですけど、今回よりいっそう、盛山くんとリリーならではのネタやなって思いましたね。でも、じつは一般の方は盛山くんのことをそんなにブスに見えていないし、そんなに汚くも見えていないしっていうギャップが……。大阪やったら定番のネタになってるからいいんですけど、そこの誤差をどんどん埋めていければいいのかなと思います。

ーーイメージの乖離があったと。

ウチの相方(井上裕介)なんかも、普通に「ブス」って言うたら「そんなブスちゃうやん」ってなっちゃうんで、アイツに気持ち悪いこと言わせて……っていうことがあったんですけど、これから『M-1』に挑戦するんやったら、あの泥臭さとか関西ならではの雰囲気は大切にしながら、そういった感覚にシフトしたらいいのかなって思います。

ーーそして王者となったミルクボーイさんが登場します。

©M-1グランプリ事務局

何も言うことないっすねー。ほんまに理想的です。何の悪気もない青年と、マウント取りたいオジさんのやりとりをこれだけウマくやったのがスゲェなって思いました。すごい身近なところの“ポップなあるある”から入って、それをマウント取りたいオジさんが、どうでもええ話を理論でこねくりまわして話すっていう。登場から完璧やったし、衣装もそうですし……。手の組み方もね、内海は左手を前にして、駒場は右手を前にしているんですけど、ちょっとだけ駒場に“アホ感”が出てるんですよ。そこまで意識しているかは分からないですし、駒場がああいうキャラクターやからこそ生まれたもんやとは思うんですけど、ここまで作り上げられたのを見せられると、お手上げですね。

ーー結成以来スタイルを崩さなかった頑固さもありますよね。

僕らが「オモロい」って聞いて見だしたのはここ数年ですけど、今年なんかは『M-1』始まる前から「ミルクボーイが面白い」って噂になってましたからね。ただただ拍手です。『M-1』史上、ブラックマヨネーズさん、チュートリアルさん以来の発明をぶち込んだ気がしましたね。

ーー大爆笑をとったミルクボーイさんの次は、オズワルド(伊藤、畠中)さんとなりました。

©M-1グランプリ事務局

あれだけウケたミルクボーイのあと、普通みんなかかり気味になったり、ちょっとうわずったり、いろいろあるんですけど、それをよく耐えたなって思います。自分が笑いをとるターンまで“よう我慢したな”って。あそこで飲まれていたら全スベリしていた可能性もあるんですけど、よく頑張ったし、カッコ良かったですね。

設定自体がぶっ飛んでいるんで、意外とお客さんに(ツッコミなどを)考える間を与えるんですよね。でも、そのまま(同じタイミングで)ツッコむとおもんない。基本、みんながツッコミを思いつくちょっと前にツッコむから面白いんですよ。(伊藤は観客が)ツッコミを思いつききった後に、それを裏切るツッコミとか、それを上回るツッコミをやるので、これは相当自信がないとできへんなって思います。カッコいいスタイルでしたね。

ーー劇場とまったく変わらない間だと感じました。

そうですね。僕も彼らのネタを何度か見てましたけど、やりすぎない良いトーンでやってたと思います。『M-1』の舞台上で気づくことってめちゃくちゃあるし、まず何よりも自信が高まるんで、バケモンになるかもしれないですね。

ーー9組目はインディアンスさん(田渕、きむ)です。いかがだったでしょうか?

©M-1グランプリ事務局

緊張してたのかもしれないですね。でも、インディアンスらしさが出ていて良かったです。1個1個のギャグ要素はめちゃくちゃ面白いんですけど、オッサンみたいな彼女が良いって言いだした側が、オッサンすぎるで全部いくのが大変やって、最終的に彼氏じゃなくてヤンキーまでいってしまったじゃないですか。

そうなった時に、主線が流れてへん感じが、(中川家)礼二さんが言うてはった「人間性が見えへん」に繋がるというか。面白いし、クオリティーが高いことやってるからこそ、“じつはそこを丁寧にやった方がいいのに”って思います。心配しなくても笑いを取れるから、だからこそ下塗りをちゃんとやればいいんですけど、下塗りが“上に塗るための下塗り”になっちゃうことが多いのかなって。インディアンスは気にかけているところもあって、それをすごく思いますね。

ーーいわゆる“人間性”を出していけば進化するんですかね。

そうですね。2人ともめちゃくちゃ真面目ですからね。このスタイルをとっているからこそ難しいかもしれないですけど、インディアンスの形はこれがマックスではない可能性もありますし、僕らもゴロッと形を変えて(M-1を)獲りましたし。これに決めこまずに、(現在のスタイルを)得意ジャンルとして置いておいて、もっと違うものに挑戦してもいいのかなって。ちょうどその時が来たんかなと思います。

ーーラストは、紆余曲折を経て、現在のスタイルにたどり着いたぺこぱ(松陰寺、シュウペイ)さんです。

©M-1グランプリ事務局

松陰寺くんがあのキャラをやるために、シュウペイくんがあそこまでアホに成り下がってくれているのが、すごいなって思いました。あれだけ長いツッコミゼリフの中、ずっとヘラヘラして前を向いておける人なんてなかなかいないんで。そこに対して意見を言わずいてられるためには、“常識人”という自分の持ってるもんを削らないとダメなんですよ。それを見事にやってのけてたなぁと。僕はこのコンビと絡んだことないから分からないですけど、ネタが終わった後、生放送中にちょこちょこ“(シュウペイが)普通の子やん”っていう場面があって(笑)、“そりゃそうやんな”って思いました。

松陰寺くんは、ツッコミの言葉を1個ずつ立てて喋るのがウマいんですよ。全部1音目をハッキリ言うんです。だから、どれだけまくしたてようが聞き取りやすい。あれでリズムも生まれるし、聞き取りやすいし、こんだけ置きにいったのに最後の言葉をサラッと流すっていう心地よさ。これはたまたま持っていたものなのか分かんないですけど、すごく勉強になりました。

ーー石田さんにとっても学ぶことがあったと。

オール阪神・巨人師匠も観てたらめちゃくちゃうまいんですよ。僕も名詞を立てるだととかは心がけているんですけど、それを変わり種風の子たちが、そういう技術を持ってるんやと思ったらすごいなと(笑)。不遇の時代があったからこそ、いろんなものを身につけて、ここまできたんやなって思いました。

あと、今の時代にすごく合っていますよね。SNSとかも、プラス意見の方がハネやすい時代なので、今の時代にハマりやすいんかなと。

有名芸人も多く参加した敗者復活戦

ーー敗者復活は舞台横でご覧になられていましたが、振り返ってみていかがですか?

全員面白かったですね。めちゃくちゃ笑いました。和牛もめちゃくちゃ面白かったですけど、それ以外も面白いコンビがおって、上位4組以外でほんまに良かったと思ったのは、天竺鼠とカミナリですね。

カミナリなんてトップ出番であれだけのクオリティー出せるのはすごい。後半に回収していく系の漫才ですが、前半が受けにくいと言われる回収系で、前半からしっかり笑いを取っていて、なおかつ自分らが不安視しているから、普段やらないようなツカミも入れてて、“ちゃんと計算してこういうことしてんねんな”って思いました。一番を引いてしまったんですけど、僕の中ではむちゃくちゃ面白かったです。

天竺鼠はパワーワードをそこらへんに放り投げる漫才師で、いつも“こんなパワーワードよく持ってくるなあ”って思っていたんですけど、今年は本当にM-1決勝に行きたかったんやなっていうのが沸々と分かるというか、“こんなに構成をちゃんとやるんや”みたいな。もちろん今までやってきてはいたんですけど、ちょっと『M-1』に合わせてきた感じがあって、これは1回決勝で見てみたかったなっていう思いがあります。

ーー敗者復活は「野外」、「マイクから離れると声が拾えない」など制約があり、計算して戦わなければなりません。

四千頭身なんかはトリオでよくあそこまでいったなって思います。完全に両サイドの声は死にがちなんで。ステージ下でマイクフォローしてるスタッフはいるんですけど、インカムに指示が入るとそっちに集中してまうから、(芸人が)動いている時にちょっと反応が遅れたりしますからね。ただこれは毎年やっていることで、敗者復活とストレートで決勝に行った人の差というか、過酷なところをいかないとしゃーないですよね。
その中でも和牛がすごいのは、マイクから離れてもみんなの“聞こう”というスイッチが入っているから聞こえやすかった。それだけお客さんを巻き込んでいるってことだと思います。

ーー敗者復活は国民投票です。地上波で生放送されているものの、パソコン、スマホでみる人など様々なデバイスでも放送されており、観る画面の大きさが変わっていきます。その違いも視野に入れないといけないんですかね。

あの会場のサイズやったら、本来顔芸なんかは手を抜いてでも他のところで笑いを取りに行った方がいいかもしれないですけど、アインシュタインのネタは、生で見るより映像で観たほうが面白かったと思うし……。戦い方は人それぞれですよね。どこに向けて戦うのかっていう。それだけ媒体があるってことは、チャンスもいっぱいあるってことですよね。

ーー最後に敗者復活、決勝併せて伸びしろが期待できるコンビを教えてください。

©M-1グランプリ事務局

いや、みんなやわ(笑)! こんな並び自分らなら準決勝も行かれへんし、3回戦止まりです。今後は、かまいたちみたいに臨場感を生むためのネタ、マイクから離れたことが逆にプラスになるような作り、何か印象づけるために離れるっていう作り方をすれば、決勝も敗者復活も勝ち上がりやすいネタになるのかなって思います。みんな頑張ってほしいですね。

石田にじっくり語ってもらった『M-1グランプリ2019』。白熱した戦いを見届けた視聴者はもちろん、芸人にとっても興味深い内容だったに違いありません。録画している方は、彼の意見を思い出しながら観ると面白いかもしれません!

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