静岡・沼津の新名物「深海魚ふりかけ」に、畳の原材料となるイグサをつかった「畳あめ」——いま吉本芸人が地域課題を解決するために、全国各地で「ソーシャルビジネス」に取り組んでいます。

このソーシャルビジネスの提唱者である、バングラディシュの経済学者でノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士の来日を記念して、その理念と活動を紹介するイベントが23日、吉本興業の東京本部(新宿区)で開かれました。
題して「ユヌス・よしもとソーシャルビジネスフェア」。オープニングセレモニーでは、ユヌス博士の目の前で芸人たちが進捗状況を発表しました。

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芸人が起業し地域課題を解決! ノーベル平和賞ユヌス氏と取り組む6事業がスタート

「笑い」が生む社会的な力

「コメディアンは姿を見るだけで笑うことができるからいい。“笑い”を生み出すことは、社会的な力になります。そういった力を、いろいろなところで活用していってほしいと思っています」

セレモニーでユヌス博士は、芸人たちにこう呼びかけました。お笑いは社会的な力になる——それこそ、博士が提唱する「ソーシャルビジネス」を具現化する原動力になります。

ソーシャルビジネスは、利益ばかりを求める従来型のビジネスモデルではなく、社会課題を解決するための取り組みをビジネスにする、という新しいビジネスの形です。
そして、それを持続させるために、慈善事業ではなく経済的に自立することを重視するということを謳っています。この新しいビジネスの考え方が、世界に横たわる数々の問題(環境、高齢化、過疎、格差など)を解決するのではないかと期待されているのです。

吉本興業はユヌス博士と提携し、2018年2月に「ユヌス・よしもとソーシャルアクション(yySA)」を設立しました。そして、全国47都道府県で地域活性化のために活動している「住みます芸人」やエリア社員から、地域が抱える課題を吸い上げ、「ソーシャルビジネス」としての事業化を進めています。

彼らの取り組みはいま、少しずつ芽を出しつつあります。その成果を、ぜひユヌス博士に見てもらいたい!というのが、今回の発表の目的。

「ユヌスさんの考え方をみんながどこまで消化しているのか、各地の取り組みがどこまで進んでいるのか、僕も楽しみです!」慶応義塾大学教授で吉本興業社外取締役でもある中村伊知哉氏の司会進行で、住みます芸人たちのプレゼンテーションが始まりました。

この日、全国から駆け付けた住みます芸人たちは、18都道府県28人。代表した4県の芸人が、自分たちの事業について熱く語ると、ユヌス博士が一つひとつ丁寧にコメントしました。

静岡県=沼津新名物「深海魚ふりかけ」(住みます芸人:富士彦、ぬまんづ)

「深海魚の聖地」と言われる沼津市で、これまでほとんど廃棄されてきた深海魚をつかって新特産品をつくり出す——それが深海魚のふりかけ、その名も「駿河湾のキセキ」です。市や地元企業の協力のもと、芸人たちのプロデュースで商品を開発。7月から手売り販売を始め、2カ月で初回製造分の400袋を完売しました。9月から全国7店舗(静岡・沼津店、東京・新宿店、大阪・難波店、大阪・伊丹空港店、北海道・新さっぽろ店、愛知・常滑店、沖縄・沖縄店)のよしもとエンタメショップで販売し、今後もどんどん広げていく計画です。

プレゼンテーションを聞いたユヌス博士は「これは、ものすごくいいアイデアです。“フリカケ”というものはよくわからないけど、見た目がよくないものをフレーク状にしておいしく食べる。栄養があって健康のためになり、とても素晴らしいことです。私の知っているケースでも、たんぱく質が豊富な虫を粉にしてケーキやビスケットに使うということをしている人がいます。いい取り組みですね」

島根県=ブラジル×日本・異文化交流事業(住みます芸人:奥村隼也)

ブラジル人が急増する同県出雲市は、外国人の子どもの増加率が全国1位。そこでは異文化のコミュニケーションが社会問題化しています。そこで、だれもが楽しめて、お互いの国を理解できるイベントを開催。

ブラジル人の児童が多い地元小学校で「子ども教室」を開くなど交流事業を進めています。テーマは、「五感で楽しむ文化交流」!
ユヌス博士は「文化や言葉が違うなかでどう地域社会と調和していくかは、世界の普遍的な課題です。その意味で、これは正しいテーマ。ただ、ソーシャルビジネスの観点から、継続的な事業としてどう実現させていくのか。あとでぜひ教えてください!」と笑顔で語りかけました。

山口県=平郡島さつまいも事業(住みます芸人:どさけん)

伊予灘の沖合20キロにある人口300人の平郡島(べいぐんとう)。そこでしか栽培されていない特産物のサツマイモ「ぎふ1号(へぐり丸)」を使って、高齢化・過疎化が進む離島を活性化するプロジェクトです。具体的には、県内企業と連携してサツマイモでつくった芋焼酎の販売促進PRをするほか、サツマイモを使ったお菓子の開発、販売を進めていきます。
12月にはマックスバリュ平生東店(山口県平生町)で芋焼酎の店頭試験販売が決定しました。今後、こうした活動を島おこしのモデル事業として全国発信していく考えだと発表します。

ユヌス博士は「こちらは農産物のサツマイモを使うアイデアで、とてもいいですね。ただ、ソーシャルビジネスは人のためになること、役に立つことをやるものです。アルコールはどうかなあ(笑)。もっと人の健康や福祉に役立つものに変えていってもらえれば、よりよいです」とニッコリ。

福岡県=畳から日本文化を世界に(住みます芸人:MC Tatami)

日本を代表する文化の一つ「畳」。しかし、その原材料となるイグサの生産量は年々減少し、イグサ農家は後継者不足に陥っています。その畳文化を盛り上げるため、イグサに食物繊維が豊富なことに着目し、イグサを原料にした「畳あめ」を開発、6月から販売を開始しました。本人は、平日は畳職人として働き、週末はイベントなどで、A4判の畳をつくるワークショップを開いたり、畳をネタにしたラップを披露したりしています。

ユヌス博士は、畳の原材料が減っていることはとても残念なニュース」とし、「それを盛り返したいという試みは、とても重要なことです。畳が食べられるとは知りませんでした。ただ、キャンディーには砂糖を入れすぎないように(笑)。ぜひ健康のためにいいものをつくってください」と期待を寄せました。

ユヌス博士からはリクエストも

さらに、ユヌス博士のリクエストで、広島県(住みます芸人:藩飛札)の「お笑い音楽隊」と奈良県(住みます芸人:十手リンジン)の「リユースコミュニティづくり」の取り組みが紹介されました。「お笑い音楽隊」は、音大出身のメンバーを中心に、高齢者施設や幼稚園などで、みんなで打楽器などをつくりながら音楽会をする参加型イベントです。一方の「リユースコミュニティづくり」は、芸人が手伝いながら家でいらなくなった物品を必要な人に販売するリユース事業です。

いよいよビジネスコンテストの受賞者決定

さらに、ソーシャルビジネスを具現化するために一般社団法人ユヌス・ジャパンなどが毎年開催しているビジネスコンテスト「YYコンテスト」の2019年受賞者が紹介されました。

グランドチャンピオンを受賞したのは、宮木俊明さんの「親子の休日革命」。
「タイトルを見て、私が“イクメン”だと思った人がいるかもしれませんが、それは勘違いです。これまで家庭を顧みず、昼間は仕事、夜はビジネスの勉強会などに参加する毎日でした」と語る宮木さんが取り組むのは、休日に大人と子どもが一緒になって、遊びながら社会課題を研究し、解決策を考える場の提供です。なぜ大人と子どもが一緒に学ぶことができないのか。そう考えて、1年半ほど前から親子が一緒にビジネススキルを学ぶワークショップを開くなどしています。

一方、ユヌス・よしもとソーシャルアクション(yySA)賞を受賞した竹位和也さんが提案するのは、マンガで貧困問題に取り組む「My Live Story」です。貧困体験者の実話をマンガ化して発信し、同様に貧困体験者のメンターとともに自立計画をつくってサポート。就労機会も提供しよう、というものです。
竹位さんは、「自分自身が貧困家庭で、大学も学費と生活費をバイトで稼いでなんとかしのぎました。そういう貧困体験者を一人でも減らしたい、という思いです」と語りました。

お笑い芸人にソーシャルビジネスはできる

最後にユヌス博士はこの日の発表を受けて、こう語りました。
「私はソーシャルビジネスを世界でかなりやってきましたが、このようにお笑い芸人がソーシャルビジネスをできると発見したのは今回が初めてで、これは素晴らしい経験です。それぞれが掲げているテーマは将来、いい方向にいくのではないかと思います。大学や企業発のソーシャルビジネスと違って、どれも地に足がついたもので、現地のコミュニティをベースに、その人たちが抱える問題を解決していく、という新しい試みだと思います。本当に素晴らしいと感銘を受けましたし、将来性を感じます」

そして、こう続けました。
「こうして一堂に会することで、お互いに刺激し合って、新しい可能性が生まれていると感じました。お笑い芸人のみなさんにこういうことができるのであれば、今後、俳優やミュージシャンなど文化やアートにかかわる人たちがどんどん同じような試みをしていく可能性が広がっていくのではないかと期待しています」

今後も地域課題を解決していくソーシャルビジネスに力を入れていくと決意を新たにした住みます芸人たち。今後の活躍と地域の活性化にも期待しましょう!

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