バングラデシュの経済学者でノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士の関西来日を記念して、博士が提唱する「ソーシャルビジネス」と関西中小企業の未来を考えるトークイベント「未来社会×ソーシャルビジネス」が、11月22日(金)、エル・シアター大ホール(大阪市中央区、大阪府立労働センター)で開かれました。

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)を控える大阪で、地域社会を支える中小企業が大きく飛躍するためには何が必要なのか、地元の中小企業関係者ら約650人を前に、専門家たちの熱い議論が交わされました。

ユヌス博士が掲げる「3つのゼロ」

「いま世界は破滅に向かっています」

「いま世界は破滅に向かっています」
冒頭のあいさつに立ったユヌス博士は大きな手ぶりを交えて、会場にこう語りかけました。
環境問題は深刻度を増し、既存の経済システムは「富の一極集中」を加速させている。そして、人工知能(AI)などテクノロジーの爆発的な進化は、人々から「働くこと」を奪おうとしている——ユヌス博士はそう指摘します。
「これは持続可能な社会ではありません。いまこそ、私たちが未来にどんな社会を望むのか、考えないといけない。古いシステムをそのまま続けても、同じところに行き着くだけです。新しい目的地には、新しい道筋が必要なのです」

世界に「新しいエコシステム」をつくりだすために、ユヌス博士が提唱するのが、「ソーシャルビジネス」という新しいビジネスの形です。利益の最大化を追求する従来型のビジネスモデルとは違い、社会が抱える課題を解決するための取り組みをビジネス化し、慈善事業ではなく、経済的に自立することで持続的に事業を展開することを目的としています。
「貧困ゼロ」「失業ゼロ」「CO2排出ゼロ」——持続可能な新しい世界のシステムをつくるためにユヌス博士が掲げるのは、この3つの「ゼロ」です。
「おカネをつくるだけでなく、社会の問題解決をするためのビジネスをつくる。それが、ソーシャルビジネスです。それを日本でも広げるために、私は本日、日本に来ました。そしてその一つが、吉本興業が進めているソーシャルビジネスです」

進むよしもとのソーシャルビジネス

吉本興業はユヌス博士と提携し、2018年2月に「ユヌス・よしもとソーシャルアクション(yySA)」を設立。今年3月には、全世界でユヌス・ソーシャルビジネスの普及活動を展開する「ユヌスセンター」との合弁会社として連携を強化させてきました。

そしていま、吉本興業は具体的に動き始めています。2011年に始めた「あなたの街に“住みます”プロジェクト」で全国47都道府県に派遣され、現地で地域活性化に向けて活動している「住みます芸人」やエリア担当社員から、地域が抱える課題を吸い上げ、「ソーシャルビジネス」としての事業化を進めているのです。

この日のイベントでは、2つの事例が紹介されました。栃木県の住みます芸人・上原チョーは「お笑い介護レクリエーション事業」の一環として、県内の介護施設と年間契約しました。

和歌山県の住みます芸人・わんだーらんどの2人は、高齢化や人口流出でミカン畑の耕作放棄地が増えている同県日高川町で、その対策に取り組んでいます。
ユヌス博士が続けます。
「いま芸人たちがそれぞれの地域、コミュニティーで課題を解決しようとしています。これは、素晴らしい取り組みです。それが成功すれば、世界中の人たちが自分たちもやりたいと、話を聞きに来るでしょう!」

事業の「わくわく」をお笑いで

2025年に開催される大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、「個々人がポテンシャルを発揮できる生き方と、それを支える社会の在り方を議論」することを掲げています。そこでは、地域社会を支える中小企業の活力が必要不可欠であり、その原動力としてユヌス博士が訴える「新しいエコシステム」は大きな可能性を秘めています。

この日のイベントでは、吉本興業ホールディングスの社外取締役を務める中村伊知哉・慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の司会で、2つのディスカッションが進められました。

1つ目のテーマは、「世界の新しいエコシステム・ソーシャルビジネスの実例」。

観光分野でソーシャルビジネスに取り組むエイティ・デイズは、インバウンドを活用した地域創生を進めています。同社代表取締役のグランジェ七海さんは、「日本人でも知らないような美しい景色をプロモーションして、外国人観光客を連れて行き、地域におカネが落ちる仕組みをつくる。地域に配分されるおカネにまで気を使って旅行プランをつくっています」と語りました。

さらに、よしもとの住みます芸人による先の2事例について、立教大学国際経営学科准教授の西原文乃さん、カリスマバイヤーでオフィス内田会長の内田勝規さんがコメント。

西原さんは介護事業について、「疲弊する介護現場に、笑いで“心の貧困”をなくしていく活動」だと評価。内田さんは、耕作放棄地が全国的に増えていることを指摘したうえで、「付加価値のあるモノ作りが大切」だと訴えました。

一方、起業家で教育者でもある坪田信貴さんは、事業を続けるうえで必要な要素として

①わくわく
②儲かること
③社会貢献

の3つを挙げ、「介護事業は③の社会貢献であり、補助金などで②もある。そこに①として“お笑い”が加わることで、広がりがあるのではないか」と評価しました。

「1000万人」でつくる万博

2つ目のテーマは、「2025年万博×関西中小企業×ソーシャルビジネス」です。
公益社団法人「2025年日本国際博覧会協会」の森清副事務総長が、大阪・関西万博への中小企業の積極的な参加を呼び掛けると、人にも環境にも優しい「ヤシノミ洗剤」で知られるサラヤ(大阪市)の更家悠介社長は、「イノベーションを実現するには新しい考え方でチャレンジしなくてはならない。それは、万博が大きな舞台になると思います」と語りました。

続いて、富士電子工業(大阪府八尾市)の渡邊弘子社長が登壇。自動車部品などの焼き入れ装置を製造する同社は、大阪のモノ作りを体現する中小企業の一つです。渡邊社長は「関西には小さくても強い、世界的にシェアもある中小企業がたくさんある」と、関西中小企業のポテンシャルをアピールしました。

芸人で絵本作家のキングコング・西野亮廣は「与えられた万博ではなく、自分たちでつくる万博」を提唱。「大阪万博を1000万人でつくる。そうすれば、盛り上がります。人は自分にメリットがあることでしか動かない。そのメリットを、これからいかに設計できるか。自分も、ぜひ参加したい!」と熱い気持ちを語りました。


イベントの最後を締めたのは、一般社団法人ユヌス・ジャパン代表理事でyySA取締役の岡田昌治・九州大学教授です。ユヌス・ジャパンは、日本におけるユヌス・ソーシャルビジネスの取り組みをさらに加速させるために今年5月に設立されました。岡田教授は、こう訴えます。

「いま国連は、17項目のリストからなるSDGs(持続可能な開発目標)を掲げています。ユヌス博士は、この17項目を決めた委員会のメンバーでもあります。これは、地球上にある問題のメニューリストです。このリストを見て、自分だったらなにができるか、これをどうやって解決するか、と考えるきっかけになることが重要です。持続的な目標を達成するためには、持続的なやり方でやっていかなければなりません。その方法の一つが、ユヌス・ソーシャルビジネスなのです」

先に登場したエイティ・デイズは、ユヌス・ジャパンなどが開催しているソーシャルビジネスのビジネスコンテスト「YYコンテスト」で2016年に優勝した企業です。創業から1年ほどたったころ、フランスから1本の問い合わせが入りました。
「フランスの大手旅行会社からでした。彼らはエイティ・デイズがユヌス・ソーシャルビジネスを実践していることを見て、日本で一緒にビジネスをしたいとコンタクトしてきたのです」

そう説明しながら、岡田教授は最後に会場にこう呼びかけました。

「いま海外であろうと、国内であろうと、大企業の外国人株主たちは企業に“社会的にいいことをやっている”ことを要求しています。その証明が、実はユヌス・ソーシャルビジネスなのです。ぜひみなさんも参加して、国内外の企業と仲良くやっていただきたいと思います」

ソーシャルビジネスはもはや海外のものではなく、日本でもみんなで取り組むものへと変化している様子。
みなさんもソーシャルビジネスについて学んでみませんか?

ムハマド・ユヌス博士プロフィール

1940年バングラデシュ生まれ。1983年にグラミン銀行を創設し、主に農村部の貧困層を対象に「マイクロクレジット」と呼ばれる無担保小口融資を行った。同国の貧困軽減に大きく貢献し、2006年にノーベル平和賞を受賞。ビジネスの手法で貧困撲滅など社会問題の解決を目指すユヌス博士は、50社以上のグラミン関連企業を経営し、バングラデシュにおける地域産業の振興、通信技術の普及、再生可能エネルギーの利用などさまざまな分野で「ユヌス・ソーシャルビジネス」を展開・推進するとともに、国連や多国籍企業、大学などともSDGsの策定などでパートナーシップを組み、日々、世界中で未来社会へ向けてユヌス・ソーシャルビジネスを実践し続けている。

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