10月27日(日)、なんばグランド花月(以下、NGK)にて『三代目林家菊丸 二十五周年記念独演会 古典と創作』が開催されました。

独演会としては、2014年9月に行なわれた菊丸襲名披露公演以来となるNGK公演となった今回。菊丸の芸歴25周年をお祝いしようと、幅広い世代の人々が会場に詰めかけました。

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菊丸登場に「待ってました」!創作落語の披露も

菊丸登場に先立ち、まずは25周年を振り返るスライドショーが。

会場の照明が暗くなり、静かに緞帳が上がっていきます。スクリーンには「三代目林家菊丸」の文字が浮かび、師匠の林家染丸、笑福亭仁鶴、桂文枝らに見守られての襲名披露公演での口上の場面や、ミュージシャンをはじめ幅広い交友の様子などが映し出されました。

小学校の卒業文集の将来の夢に「話家(原文ママ)」と書かれた写真が登場すると、会場からは「おお~」という声も。放映後、すっと袖から登場した菊丸。一礼すると「待ってました」の声が飛び交いました。

見習い期間中の楽屋でのエピソードに始まり、師匠である林家染丸のおちゃめな一面を披露し、「師匠と弟子は血縁関係以上の絆を深めていくものです」と述べます。

その後、林家たい平から習ったという『湯屋番』を披露。銭湯へ奉公する若旦那の無邪気な性格を、明るく、自由に描く菊丸。番台に座って妄想を繰り広げ、一人芝居まで始める若旦那の姿を生き生きと演じました。

続いて披露した創作落語『留学生マットくん』は、菊丸が襲名前の染弥時代に経験した実話に基づき創作したもの。外国人のマットくんが落語の稽古に挑む場面などをおもしろおかしく口演します。

日本文化に親しもうとするマットくんですが、ことわざや慣用句の使い方が間違っていたり、菊丸が説明した日本語での例えが通じなかったりと、2人の間には異文化コミュニケーションの難しさが横たわります。それらを笑いに昇華した一席で会場を和ませました。

25周年を師匠・染丸やノンスタ石田も祝福

ここでゲストの矢野・兵動(矢野勝也、兵動大樹)が舞台上手から登場。生演奏の出囃子に、「生のお囃子で舞台に出るのはなかなか、ない!」と矢野は満足気な表情を浮かべます。「25周年を盛り上げていきましょう」と、「菊丸くん25周年おめで」「と~!」という客席とのコール&レスポンスも行ない、漫才で沸かせました。

その後、再び菊丸の高座へ。創作落語『貢ぐ女』を披露します。冒頭、「80年代、70年代の刑事もののドラマに憧れます。容疑者が住む2階建てのアパートに刑事さんが尋ねてきたとき、‟お隣さんなら引っ越しましたよ”と言う役をやりたい」と夢を語り、「レトロな香りのする創作落語を」と、今の時代にはない仕草や発言が特徴的な女性が主人公の、男女関係の妙を描いた一席を披露しました。

高座の合間には「菊丸、頑張れ!」とエールを贈った林家染丸や、菊丸自身がカメラを回したというNON STYLE・石田明からのコメント、また林家たい平やABCテレビアナウンサー・加藤明子からの祝福の声もVTRで流れました。

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最後の演目「幸助餅」では情感豊かに熱演!

最後の演目は『幸助餅』。松羽目を背にし、相撲取りに入れあげた男・幸助の再生物語を熱演しました。喜怒哀楽を揺さぶる人情噺で、大きな笑いが起こるようなネタではないものの、観客の意識は高座に一点集中。菊丸が紡ぐ物語に皆、熱心に耳を傾けていました。

幸助が金を工面するため、妹を売りに出した廓のおかみが最後に独白する場面では、情感たっぷりに口演し、豊かな心理や情景描写で落語の世界を存分に堪能させました。

ハードな演目も「NGKはお客さんが乗せてくれる」

今回、独演会を終えた菊丸にインタビューを行ないました。

――冒頭で披露された染丸師匠とのエピソードには、楽しい話が満載でした。

修行の話はしくじったこととか、辛い話にオチをつけることが多いのですが、そうではなく日常の話をしたいと思ったんです。

――今回披露された演目には、いろんなキャラクターが登場しましたね。

演じ分けですよね。今回、そういう意味では無茶をしました(笑)。噺の中には色街の女性もいましたが、全部、若いときに師匠が厳しい稽古をしてくれたので演じられました。日本舞踊とか、そういうところから入るのがうちの一門のやり方なので、所作はちゃんとしていると思います。

人物の演じ分けは気持ちを切り替えないといけないので、そういう意味ではハードで、目まぐるしかったですね。なかなか思い通りにはいきませんが、お客さんが乗せてくれました。NGKはお客さんが乗せてくれる、そういう場所です。

――具体的にはどんな感じですか?

笑い声がバーンと弾けるんですよ。あれはやっていて励みになります。昼公演に出たときもそうですけど、後ろのほうからもバーンと笑い声が来るんです。あれが最高ですね。緊張感も解けるというか……。今日も最初は緊張していたので。でも、ここでは笑いが来てほしいなってときにバーンと来て、そのときに「あ、これでいけそうかな」と思いましたね。

――普段は緊張することはありませんか?

緊張感はありますが、「どうなるかな」とか、ここまで緊張することはないですね。よく「自分を信じて」とか言いますけど、自分のことが一番信用できないんです。自分のダメなところは自分が一番、分かっていますから、やっぱり不安ですよね。自分が一番当てにならんところがありますからね(笑)。

――今日はどの段階で緊張感が取れましたか?

『湯屋番』が終わったときに、“ああ、今日は行ける”って感じがしましたね。

――観ている側からすると、妄想シーンなどは楽しくてノリノリな感じがしました。

あれはね、やっていて楽しいんですよね。今回、気が乗る演目を選んだので、そういう意味では作戦通りにいったかなという感じです。

――創作落語『貢ぐ女』に出てくる女性はかなり個性的でしたが、モデルさんがいらっしゃいますか?

パンフレットにも記載したんですけど、三浦綾子さんの『積木の箱』という小説に、お妾さんの女の人が出てくるんです。その人は妙な色気があるんやけれども、やっぱりモラルに反した生き方をしてるんです。そういう微妙なところ。実生活ではそんなことはできなくても、噺の中では描いてみたいなって思って作りましたね。

――女性の仕草には突き抜けた面白さがありましたね。

これもパンフレットにあるんですが、春風亭昇太さんから「ちょっと弾けている菊丸も見てみたい」というお言葉をいただいたんです。今回、ちょっと殻を破ってみようかなぁって。どっちに転ぶか分からないですよ。スベるかもしれませんし、引くかもしれませんけど……。でもやることが挑戦ですから。25年ってまだまだ、まだまだ途中ですから。

――ああいう感じの弾け方は今日が特別でしたか?

今日はちょっと弾けましたね(笑)。でも、そういう一面を出したかったというのはありますね。

落語ファンのすそ野を広げるために

――菊丸さんは普段はしっかり古典を演じられているイメージがありますが、今回、コミカルな部分や突き抜けた笑いをされる一面を見られて新鮮でした。

落語もこれから若いお客さんを取り込んでいかなあかんわけで、そういう世代のお客さんをどう楽しませていくのかが、これからの課題です。

――最後の『幸助餅』も、一つの挑戦と言いますか、ほとんど笑いがない噺を45分間にわたって聴かせるというのも、なかなかの力がいるものだなと思いました。

後半までどうやってお客さんを引っ張っていくか。まず、丁寧に演じながら、お客さんを徐々に引きつけていく。『幸助餅』は一つの芝居なんですよね。

だから、芝居のようにお客さんが立体的に想像できる感じでやっていこうと思ったので、声の強弱など十分に気を使って、ダレさせないように、一本調子にはならないようにというのはありましたね。

――『幸助餅』は染丸師匠の十八番なんですよね。高座の途中など、師匠のことを思われましたか?

そうですね。やっぱりお世話になって今があるというのは、まさしく噺にリンクしますよね。

――修行して、出世していくという流れでいうと、『湯屋番』の冒頭で師匠との思い出を語られて、そして『幸助餅』で独演会を締めるというのは、意図的な構成だったのかなと思ったのですが。

いやいや、そんな意図はなかったんです。でも、そういうふうに受けとってくださったなら、ありがたいです。辞めていった同期もいますのでね。一緒の時期に入って、噺家でも、漫才師さんでも、辞めていくじゃないですか。辞める勇気も大事ですが、なんとか続けてこられて、こんな舞台でできるというのは、自分だけの力ではないので。

――続けてきた中で良かったと思う一番のことは何ですか?

お客さんの期待に応えられたときですよね。そんな舞台ができたときに、喜びを感じますね。

――最後に、今後の取り組みを教えてください。

人生100年時代ですから、芸歴25周年なんてまだまだ途中経過で。上には桂文珍師匠のように芸歴50年の先輩がいて、あんなに元気でバリバリされている。

僕は今、ようやく落語が分かったという感じなんです。やっと、本当の意味で分かりかけてきたような。どうしたら失敗しない舞台になるかという、そのヒントだけ分かるようになってきました。昔はその辺も分かっていなかったので。

それと、少しばかり自信もつき始めて、落語のことも分かり始めて。高座に対して責任を持つようになりました。それはこれから、もっと持っていかないとあかんと思います。

 

25周年を迎えた今、さらに先を見据えている様子。途中経過だという菊丸の、今後の活躍がますます期待されます。

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