叔父に呼び出された。

これはことわざではない。事実なのだ。
「叔父に呼び出される」そんなありそうでないことが起こった。

つい1ヶ月ほど前、話があるからと、空いてる日時をショートメールで聞かれた。
その日から会う予定の日までの5日間、何も手につかなかった。
どういった内容なのか聞くことも考えたが、向こうがそこを敢えて伏せている以上、聞いてしまうと叔父のことを信用していないようで嫌だった。

そんな悶々とした気持ちを抱えていると、5日間はすぐに経ち、当日気持ちがはやったのか、約束の時間より30分ほど早く叔父の家に着いた。
チャイムを鳴らさずドアを開け、「こんにちはー」と声をかけると、2階へと続く階段の上から叔父が顔を出した。
そしてものすごく小さな声で「はやっ」とこぼした。

「ちょっと早くなってしまったわ。上がっていいかな?」と聞くと少し間を空けて「う、うん」とこちらは不満ですよというニュアンスと共に許可をいただいた。
心の中で「なんでやねん」と一言呟いたあと、靴を脱いで2階へと上がった。

「お邪魔しますー」と言いながら2階の部屋に入るとすぐ、「下の部屋いこ」と言われた。
心の中で「早よ言えや」と呟いてまた下に降りた。

玄関から入って左手に階段があるのだが、右手の廊下にはドアが2つあり、手前が小部屋で奥がトイレである。
小部屋の方に入り、イスに座って少し待っていると、先ほどは着ていなかった、黒のスーツを着用した叔父が入ってきた。
スーツを着るほどのことなんだと驚いたのと同時に、胸元の真っ赤なペイズリー柄のネクタイが目に入った。

お笑い芸人がつけるような、“THE赤”。
「ワンポイントで色を入れる余裕はあるの? でもスーツを着るほどではあるの? どういう状況?」と混乱したのも束の間、その混乱を刀で切るようにスパッと叔父が口を開いた。

「まずは恵子との馴れ初めを聞いてくれへんか」

恵子とはおじさんの妻、つまり僕の叔母さんである。
「なんでやねん」と心で呟いてから、野暮な事はしたくないので、「わかった」とその提案に乗った。

そしてまた刀で切るようにスパッと、「フリーハグって知ってるか?」と切り出してきた。
見事なスタートダッシュ。
馴れ初め話でこんなにワクワクする切り口は初めてだ。
「どういうこと?」と聞くと、20年前の話に遡っていった。

20年前、日本にフリーハグが入ってきたばかりの頃、叔父は会社の仲間たちと、休日に駅前でフリーハグをしていたらしい。
何してんねん。
もちろんその会社は今はもう無い。
やはりフリーハグに馴染みがないので、ハグしてくれる人は1日平均2人ほどだったそうで、それでも仲間で励まし合ってなんと一年ほど続けたらしい。
その会社は今はもう無い。

そうして一年たったある日、叔父がいつものようにフリーハグの看板を持って立っていると、女子大生らしき集団が現れ、フリーハグの看板の前でヒソヒソと相談し始め、ジャンケンを始めたらしい。
その時に負けたのが恵子叔母さんだそうで、ちなみに最後はパーで負けていたらしい。

知らんがな。

そして「えー」と困った顔をしながらフリーハグの看板の前に来て、どの人にハグをしようか叔父を含め5、6人いるメンバーの前でキョロキョロし始めると、同僚たちは女子大生とハグできるのかとソワソワして、全員が一歩前に出たという。
その会社は今はもう無い。

そして少し悩んだ恵子叔母さんは、堰を切ったように叔父さんの胸に飛び込んで来たらしい。
そこで信じられないような言葉が、でも信じてみようと思うような真剣な眼差しとトーンで叔父さんの口から飛び出した。

「そのハグから流れで、その場でBまでいったんや」

信じられるわけがない。
「Bまで? 流れで? その場で?」
ハテナが僕の目からポロポロ溢れて止まらないので、一つずつ叔父さんにぶつけて消していくしかない。

僕:「BってそういうB?」
叔父さん:「そういうB。……CよりのB」
僕:「CよりのB!? え、なんで? 同意のもと?」
叔父さん:「なんていうか、奇跡的な相性としか言いようがないかな。ハグした瞬間に電気が走ったというか、お互いこうなることを知ってた気がしたというか、そんな感じで自然に始まってん」

どんな感じか全くわからなかった。
が、とにかく無理矢理とかではないみたいだ。そもそもそうでないとその後結婚するわけがないか。

少し安心した僕は、それ以上ハテナを叔父さんにぶつけるのが怖くなったので、全て飲み込み胃に落とし、話を本題に戻した。
「その馴れ初めが、今回の話とどう繋がってるん?」と今度は僕が空気を刀でスパッと切ってみた。
すると叔父はその刀を刀で受けるようにスパッと「借金で離婚しかけてるからちょっとお金貸してくれへん?」と切り返してきた。
「あ、そうなんや」
それが僕の口から絞り出した精一杯の言葉だった。

馴れ初めの話は繋がってるのか?
そんなに相性がいい奇跡の2人だからどうしても離婚したくないんだということなのだろうか?

どうやら繋がってるらしいので、なんとか自分の中でフリーハグの馴れ初め話と借金を繋ぎ合わせようとした。
その後叔父の口から金額が告げられたのだが、そんなにたいした額ではなかったので、繋げる作業は一旦やめて、その日は答えを持ち帰ることにした。

部屋を出て靴を履き、玄関のドアを開けて「また連絡するわ」と振り返ると、叔父さんが、一筋の涙を流し、真剣な眼差しで両手を広げてハグを待っていた。赤いペイズリーのネクタイが揺れている。

僕は心を鬼にして、扉を閉めて帰った。


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