3月7日(日)、東京大学のシンボルでもある安田講堂で「笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト」の第一弾企画として、オンライン特別講義「言葉力が世界を変える?」が行われました。
2025年大阪・関西万博、その先のSDGs目標達成年次の2030年を見据えながら、学術とエンターテインメントの積極的な対話、協働を推進し、持続可能な新しい価値の創出と未来への提言を目指すこのプロジェクトで、最初の対談を行ったのは、東京大学大学院人文社会系研究科の佐藤健二教授とピース・又吉直樹の2人。社会学者と芸人・小説家のともに言葉に向かう立場ながら、まったく違ったアプローチを行う2人が「言葉の使い方と捉え方」、「現代のコミュニケーション」「私たちがもつべき言葉力」をテーマに言葉を深く掘り進めるべく、対談をスタートさせました。

言葉はそもそもバーチャルな技術

最初のテーマである「言葉の使い方、捉え方」では又吉が、現実で面白かったできごとを言葉で再現することは難しいといいながらも、お笑い芸人は現実と同じか、それ以上におもしろく再現することが求められるため、使い方にはとくに工夫していると述べます。その上で言葉は単に伝達手段としてだけでなく、語ること書くことで物語を生み出すものでもあると言います。それに対し佐藤教授は、そもそも言葉はバーチャルリアリティの世界を作りだす技術だった、と受けます。同じ状況を体験していても、同じことを感じているとはいえない、だから言葉かなぜ通じるのは、じつは不思議な現象なのですと面白がります。
では、どう言葉を使えばよいのか、佐藤教授は哲学者である鶴見俊輔氏の書いた『文章心得帖』を例に出し、言葉が力をもつためには「誠実さ、明晰さ、わかりやすさ」が重要だといいます。誠実さとは流行りの言葉や、決まり切った定型的な言葉を使ってすいすい書いてしまわないことであり、明晰さとは自分の使っている言葉を自分できちんと説明できること。そして、わかりやすさはとくに複雑で、相手にはもちろん、自分にもわかったと感じさせるもの、つまり自分の気づきや考えを後押しする動きがなければならない、と論じているのだそうです。又吉も、小説を書く上で、その指摘には思い当たるところもあり、わかりやすさは難しいものを単純にすることでないと応じます。複雑なものを複雑なままにとらえながらも、理解を生みだすためにいかにうまく言葉を使っていくか、それが重要だと述べます。さっそく、お笑いと学問の「言葉力」における近い関係が見えてきました。

“つながる”ことが強調されすぎている

続いて、スマホやSNSなどの登場でコミュニケーションが変わったのかというお題が出されました。しかし、言葉自体がそもそもバーチャルリアリティの技術だったことを考えれば、いま指摘されている利点や欠点は必ずしも目新しい現代特有の現象とはいえない、と佐藤教授はいいます。例えばコロナ禍でオンライン会議が増えて便利になったものの、どこかで微妙な思いが通じない、空気感が伝わらないという感覚があり、現代の技術環境が解決できていない問題もあるのだと指摘します。むしろ現代のコミュニケーションで情報の伝達の速さや“つながる”側面ばかりが強調されているのは、無視できない偏りであると教授は言い、即レスや既読スルーが問題になるのもいつでも、どこでもつながることに依存しているからではないかと分析します。
その上で、コミュニケーション技術には、関係を“切る”側面があることを指摘し、読書を例に取り上げます。教授が、列車内での読書は、先行する馬車での旅から継承した「社交的な会話」の強制を合理的に回避する手段だったからだという歴史研究の成果を紹介すると、又吉さんも学生時代、休み時間が苦手だったけれど読書をすることで無理なく休み時間を過ごすことができたという話をし、一人の時間の重要性に話が及びました。
一方で、ひとりでいる時間と場所とが、誰にも見られない場所から人を攻撃することも、勝手なことを落書きし誹謗中傷する「炎上」の空間をも生み出してしまっていると教授は危惧し、ひとりの時間の異なる面についても話題になりました。

言葉は拡張された身体である

3つ目のテーマである「私たちがもつべき言葉力」で、又吉は「想像力とやさしさ」を挙げます。短い言葉で表現することが多くなるなかで、言葉の真意が伝わりにくいことが増えるため、受け手はその裏側にある気持ちや背景を想像力で補ってあげること、相手の言葉に対し、批判的になりすぎないことが大事なのではと話しました。
逆に伝える側も、言葉が伝わらないと感じるからこそ、言葉をどう使おうか工夫することができると言います。一方、佐藤教授は言葉力を「もうひとつの身体」であり「拡張された手、脳、皮膚」だと言います。

人間は言葉で考え、言葉を使って分析します。言葉がなければ、表現することも考えることも、記憶することもできない。その意味で言葉はもうひとつの脳だという。さらに、われわれは言葉のあたたかさに冷たさを感じ分け、言葉に傷つき痛みを感じることを考えるならば、言葉は皮膚のようなセンサーの機能を有している。つまり、言葉は拡張された身体であると言います。
言葉と身体的なつながりには、無自覚な部分も多いことから言葉の力をさらに考えていくことの必要を佐藤教授は示し、又吉もまた言葉の力の奥深さを改めて感じていました。

最後に、視聴者からの質問に答えます。そのひとつ「これまでかけられた言葉の中で忘れられない言葉とは?」という問いに、又吉は父に対する母の意外な言葉に夫婦ゆえの信頼関係をかいま見た経験を挙げる一方、ピースを結成した時に相方の綾部からかけられた「伝説のはじまりや!」という言葉に「とんでもない奴と組んでしまった」と思ったエピソードを紹介しました。
片や佐藤教授は中学時代に、立ち読みした本のなかのことばの経験を語ります。実家の本屋さんで谷川俊太郎氏の詩集を読んだ時に、言葉で身体が実際に震えたことに自分自身が驚いたそうです。
ところが、最近読み返しても震えを再体験することはできなかった。改めて言葉は生き物であって、いつどこで出会うかも大切だと感じたと話され、言葉の持つ力を存分に引き出した2人の対談は終わりました。

対談を終えて佐藤教授は、「東京大学と吉本興業ということで、どうなるのかと思っていましたが、又吉さんの個性もあってうまくかみ合ったのではないでしょうか」と述べ、又吉さんも「言葉が持っている力が立体的に広がった」と感想を述べました。その後、同じくオンラインでの取材会も行われ、そのなかで又吉はコントを長年やってきて小説も書くようになった経験も踏まえて、「ジャンルの越境を行うことで、結びつかないと思われることが結びつくとき必ず発見がある」と、東大と吉本のコラボに参加したことを明かし、今後も異色のコラボレーションから新たな発見が生まれることを期待していました。


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