吉本興業が昨年2月、バングラデシュの経済学者でノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士とともに始めた「ソーシャルビジネス」創出の取り組みが、具体的な事業として芽を出し始めました。
高齢化、人手不足、過疎、格差……地域社会が抱える問題を、一過性のボランティアではなく、ビジネスとして収益を上げながら持続的に解決していこうという取り組みで、よしもと芸人たちが考えたビジネスプランが全国各地で具体化しつつあります。

現在、サービス開始に向けて準備が進んでいるのは6事業。13日に開かれた記者会見で、これらの進捗状況が発表されました。

初年度から黒字化目指す

「この取り組みは、私たちの考え方を変えるイニシアチブとなり、社会問題の見方を変え、解決方法を発見するきっかけになるでしょう。地域の問題をソーシャルビジネスという方法で、芸人とともに解決策を提案するこの活動は、お笑い、エンターテインメント、そしてアクション(行動)とも言えます。自分自身が楽しみながら世界を変えるのです」

記者会見にビデオメッセージを寄せたユヌス博士は、力を込めてこう訴えました。

「これは新しい始まりです。長い道のりになりますが、われわれはこのプロジェクトに情熱を注ぎます。大きな期待を抱いています。そして、いま社会がそれを求めています。目標達成に向けて行動を起こしましょう」

「ソーシャルビジネス」とは、ユヌス博士が提唱する新しいビジネスの形です。利益の最大化を追求する従来型のビジネスモデルとは違い、社会の課題を解決するための取り組みをビジネス化し、慈善事業ではなく、経済的に自立することで持続的に事業を展開することを目的としています。

ムハマド・ユヌス博士
1940年バングラデシュ生まれ。1983年にグラミン銀行を創設し、主に農村部の貧困層を対象に「マイクロクレジット」と呼ばれる無担保小口融資を行った。同国の貧困軽減に大きく貢献し、2006年にノーベル平和賞を受賞。現在も50社以上のグラミン関連企業を経営するとともに、国連や大学、多国籍企業などとパートナーシップを組み、世界中で社会問題の解決に向けたソーシャルビジネスを実践し続けている。

吉本興業はユヌス博士と提携し、昨年2月に子会社「ユヌス・よしもとソーシャルアクション(yySA)」を設立。これまで地域の課題を抽出しながら、「ソーシャルビジネス」としての事業化を進めてきました。

地域課題は、吉本興業が2011年に始めた「あなたの街に“住みます”プロジェクト」で全国47都道府県に派遣され、現地で地域活性化に向けて活動している「住みます芸人」やエリア担当社員から吸い上げたものです。それらを地元の自治体や企業・団体、さらには協力関係にある起業家やスタートアップ企業などの支援を受けながら、持続可能なビジネスプランとして練り上げてきました。

現在、具体的なサービス開始に向けて準備が進んでいるのは、栃木県、山梨県、静岡県、京都府、岡山県、福岡県の6事案。ほかの地域についても事業化を進めているところで、さらには住みます芸人以外の一般の方々からも公募していく計画です。「一つひとつは大きな資金がいらない事業なので、初年度から黒字化を目指す」(担当者)とのことです。

プロジェクトの「第2フェーズ」

ビジネスプランを事業化するときに重要なのが、「ユヌス・ソーシャルサービスの7原則」を順守していることです。それぞれの事業を継続させていくため、今後、理念に賛同してもらえる企業などからも、広く出資を集めていきたい考えです。

ユヌス・ソーシャルビジネスの7原則

利益の最大化ではなく、社会問題の解決が目的
財務的な持続性を持つ
投資家は投資額を回収するが、それ以上の配当は受け取らない
投資額以上の利益は、ソーシャルビジネスの普及に使う
ジェンダーと環境へ配慮する
従業員はまっとうな労働条件で給料を得る
楽しみながら取り組む

新体制で臨む、地域密着型のソーシャルビジネス

yySAでは今年3月、これまでエリアプロジェクトの総括担当をしてきた泉正隆・吉本興業専務が新社長に就任し、体制を一新。全世界でユヌス・ソーシャルビジネスの普及活動を展開する「ユヌスセンター」からの出資も受け、合弁会社として連携を強化させています。

泉新社長は、こう意気込みを語っています。
「これまで住みます芸人たちが、地域貢献のためにボランティアでやってきた活動もたくさんあります。それらのなかから持続可能なソーシャルビジネスを生み出す。『地域』をテーマにした吉本の取り組みの“第2フェーズ”だと言えます。こうしたビジネスが広がり、雇用が増えて、地域が元気を取り戻せば、日本も元気になる。そうした良い循環を実現したいと考えています」

yySAは、ユヌス博士がかかわった日本における日本初の合弁会社であると同時に、ユヌス博士がエンターテインメント会社と組んだ世界で初めての合弁会社でもあります。新しくyySAの取締役に就任したユヌス・ジャパン代表で九州大学教授の岡田昌治氏は、会見でこう語りました。

「小さなことからコツコツと社会問題を解決するというユヌス博士のソーシャルビジネスの文化を、笑いの力で各家庭のお茶の間に持っていく。ここには、笑顔で社会の問題を解決していこうという力強さがあり、情熱があります。日本の地域の問題を解決することは、世界の問題も解決できるということになるでしょう。ぜひ、このプロジェクトを成功させたいと思います!」

山梨「移動詰め放題屋」や静岡「深海魚ふりかけ」

さて、芸人たちが立ち上げた6事業とは、どんなものでしょうか。会見では、南海キャンディーズ・山里亮太と、吉本の社外取締役を務める中村伊知哉・慶応大学教授らの司会進行で、会場に駆けつけた「住みます芸人」たちから、その進捗が発表されました。

困っている人に寄り添って「笑いの力」で社会問題を解決したい

山梨県=移動詰め放題屋「ふじまーる」(住みます芸人:ぴっかり高木、いしいそうたろう)
芸人が、県内を移動販売車で巡り、「詰め放題タイムセール」を実施し、山間部の「買い物弱者」支援や、中心部の商店街の賑わいづくりに貢献する。高齢農家の規格外の廃棄農作物や個人商店の商品などを取り扱い、芸人のPR力で、これらを消費者まで直接流通させる仕組みをつくり出す。商品の仕入れ先や販路を広げるとともに、フランチャイズ化による全国展開を目指す。(7月から本格実施)

京都府=丹後産直「野菜市」(住みます芸人:きゃろっときゃべつ)
実際に芸人が就農し、京都府北部の丹後地域で生産された農作物を、関東や関西の都市部で販売することで、農業や地域の魅力を発信する。小学校での出前野菜授業や、劇場への出店といったイベントも展開。就農芸人が管理する農地の区画をファンが“購入”し、育成状況をアプリ配信する企画なども含め、「農業をみんなで楽しむサイクル」をつくる。仕入れ先、販路の拡大で雇用を生み、丹後の農業人口の増加をはかり、全国展開につなげていくのが目標。(7月に事業テスト、10月から本格実施)

栃木県=お笑い介護レクリエーション(住みます芸人:上原チョー)
介護業界の人材不足を解消するため、芸人が介護関連の資格「介護初任者研修」「介護レクリエーション2級」を取得し、県内の介護施設などで介護レクリエーション事業を実施する。施設をまわりながら、IT企業などと協力して高齢者向けレクリエーションコンテンツなどの開発も進め、全国展開を目指す。(6月から介護レクリエーション営業活動開始)

楽しみながら環境・エコ問題を解決したい

静岡県=沼津新名物「深海魚ふりかけ」(住みます芸人:富士彦、ぬまんづ)
「深海魚の聖地」と言われる沼津市で、これまでほとんど廃棄されてきた深海魚をつかって新特産品をつくり出す。その第1弾が「深海魚ふりかけ」。市や地元企業の協力のもと、芸人たちのプロデュースで商品を開発、イベント会場などで販売する。ほかにもさまざまな新商品を開発し、沼津市の魅力発信と活性化につなげる。(6月から沼津市内で販売開始)

後継者不足の文化・伝統工芸を再興したい

福岡県=畳から日本文化を世界に(住みます芸人:MC Tatami)
畳の原材料「イグサ」に食物繊維が豊富なことに着目し、イグサを原料にした「畳あめ」を開発・販売する。そのほか、国内外でさまざまな「畳」文化のプロモーションを展開し、生産量減少や後継者不足に陥るイグサ農家の支援につなげる。(6月から「畳あめ」生産開始)

集客施設・商店街に持続可能な活気を取り戻したい

岡山県=渋川マリン水族館×よしもとコラボレーション事業(住みます芸人:江西あきよし)
来場者数減に苦しむ県内唯一の水族館「渋川マリン水族館」(玉野市)の再生に向けて、吉本芸人とのコラボレーション企画を展開する。芸人による館内コーディネート、芸人と行く館内「うらがわツアー」、夏休み工作ワークショップ、海のいきものトークライブなど、さまざまな企画を実施する。IT企業と協力してライブ配信も。再生ノウハウを蓄積して、ほかの観光スポットや全国展開も視野に入れる。(4月から順次実施中)

そのほかにも、それぞれの地域でさまざまなプランが進んでいます。

「インスタ映え特産品アートスムージー」(北海道)
「書道7段芸人のおもしろ習字教室」(新潟県)
「県民のための婚活事業」(茨城県)
「ごくごくピーナッツ飲料」(千葉県)
「スポーツGOMI拾い」(神奈川県)
「銭湯寄席」(石川県)
「伝統工芸アイドル」(福井県)
「お笑いマグロ解体ショー」(和歌山県)
「クラフトビールで住みます芸人」(鳥取県)
「ゆず農家応援事業」(宮崎県)

会見では、新しくyySAの取締役に就任したスリランカ出身の日本在住ジャーナリストのスベンドリニ・カクチ氏と、ソーシャルイノベーションを研究する立教大学経営学部の西原文乃准教授も紹介されました。

「地域の経済を芸人とともに考えて活性化していくというコンセプトは、とてもユニークなアイデアです。私の役割は、世界にこのメッセージを伝えることだと考えています」

カクチ氏がジャーナリストの視点でこう語ると、西原准教授も研究者として「学生とともに、地域の人たちとともに活動を起こし、『共感』『共振』『共鳴』をテーマに、笑いをベースにしたこの新しいソーシャルビジネスを支援していきたい」と語りました。

芸人たちは、これから試行錯誤しながらビジネスを作り上げていくことになります。持続可能な社会問題解決に向けた取り組みは、いま始まったばかりです。

ユヌス・よしもとソーシャルアクションでは、ソーシャル・ビジネスのアイデアコンテスト「YY CONTEST」を開催しております。
「ユヌス」と「よしもと」それぞれの頭文字を取った、ユヌスセンター・ジャパン主催のコンテストです。
若者による革新的なソーシャル・ビジネスの創出を目的とし、過去6回の開催でも、自立的・持続的に社会的課題を解決するビジネスを創出してきました。
メンター伴走型の丁寧な取り組みと、豪華ゲストによる充実したワークショップが特徴です。
http://yysa.yoshimoto.co.jp/