桂文枝が5月11日(土)、大阪市・天王寺区の天王寺区民センターで開催された『参地直笑祭in天王寺区』に登壇し、オリジナル落語『しあわせの進軍』を披露しました。

「参地直笑祭(さんちちょくしょうまつり)」は桂文枝が大阪市24区をテーマに創作落語をつくるプロジェクトで、これまで住之江区、大正区、港区、此花区、旭区、西淀川区で開催されてきました。各区の名所や名物を織り交ぜた文枝創作のご当地落語が聞けるとあって、毎回多くの区民に人気を博しています。

文枝、天王寺区への特別な思いとは?

前説で登場したのは“天王寺区住みます芸人”のミルクボーイ。「今日は特別ゲストが……」と松井一郎大阪市長を呼び込むと、思わぬサプライズに会場からは驚きの声が上がりました。2人は駒場の筋肉芸や、内海の特技であるけん玉を披露して盛り上げます。

続いて桂文枝が登場し、「何よりも天王寺区に来たかった」と挨拶。高校時代に四天王寺高校の演劇部に通っていたことに加えて、文枝は天王寺区に特別な思い入れがあるそうです。

区をテーマにした落語をつくるにあたり、前回同様、現地に何度も足を運んだとのことですが、舞台となった真田山公園には明治4年に日本で初めて造成された陸軍墓地があり、そのうち野田村遺族会が戦後に建てた169基のなかに、文枝の父・河村静三の墓碑があると話します。文枝は動画を交えつつ「このお墓が今日の落語に出てきます」と明かし、早くも落語の世界へといざないました。

夏を先取り!? 珍しい怪談噺風の始まりにゾクゾク!

公演の冒頭では、“大阪府住みます芸人”のspan!(スパン!)が漫才を披露。コンビ間の体格差を活かしたお馴染みのネタで会場を沸かせます。

続いて、文枝の弟子である桂三幸が「お忘れ物承り所」を披露。こちらは文枝が三枝時代に作った創作落語で、多くの落語家たちに受け継がれている一席です。

いよいよ、文枝の高座へ。「しあわせの進軍」の舞台は旧真田山陸軍墓地ということで、普段の落語会とはまた異なる、高座にのみスポットライトを当てる演出が恐怖心をあおります。そして「169基のお墓の中から兵士の幽霊がすーっと出てきて……」と怪談風に始まり、会場は一瞬にして静まり返りました。

冒頭では戦死した2人の兵隊が、第二次世界戦争について語ります。月を仰ぎ見て海外の戦地を思い出す場面は詩情にあふれ、早くも見せ場に。また、2人の兵隊は令和の時代に出てきていることから、その時代錯誤なやり取りに会場もどっと沸きました。

堺市にあった野田村の墓地がなぜ大阪市天王寺区にあるのかといった歴史や、現在、お墓の保存修復に向けて大阪市や国に働きかけていることを訴えかける文枝。また、さきの戦時中に幼い文枝を残し、28歳の若さで亡くなった父の思いを代弁するかのような場面も。戦争のむごたらしさ、父の無念、家族の悲しみなど声を震わせて語る姿に、会場は水を打ったような静けさに包まれました。

一方、父・静三が息子の晴れ姿を応援してやろうと、旧真田山陸軍墓地に眠る兵隊とともに真田山から公演会場まで行進する場面では、天王寺区の地名が次々と登場。馴染みある地名と、兵士たちの絶妙なやり取りに笑いも絶えず、大成功となりました。

松井大阪市長、西山区長とのトークも

公演後は、松井市長と西山忠邦天王寺区長、そして文枝とのアフタートークへ。

松井市長は「笑いもたくさんでしたが、じーんときましたね。さすが文枝師匠の落語」としみじみ。文枝が墓地の現状について尋ねると、一部建て替え予定であると明かし「できる限り、国にも働きかけをして予算を確保していきたい」と意気込みました。

西山区長からは「(創作にあたって)何か苦労話はありますか?」と質問されると、「しあわせの進軍」は史実に基づき、すべて実在した人物名で構成されていたことから「お名前や階級を間違ってはいけない。覚えるのが大変でした」と文枝。締めの挨拶では「一度、旧真田山陸軍墓地に行ってみてください。戦争は二度と起こしてはならないと感じるはず」と、観客に対し切なる思いを語りかけました。

ステージを去る前に、文枝は会場の上の方を見つめて「お父さん、まだいてるわ」とポツリ。最後もやはり笑いで締めました。