お笑いコンビ・インパルスの板倉俊之による約3年ぶりの新著『鬼の御伽(おとぎ)』(ⅡⅤ)が1月25日(月)に発売されました。今回はなんと、「桃太郎」と「泣いた赤鬼」をモチーフにした板倉流のまったく新しい“おとぎ話”。その出版を記念して、カバーイラスト・扉絵を担当した漫画家・浅田弘幸氏とスペシャル対談が実現しました!

誰もが読んだことのあるおとぎ話「桃太郎」と「泣いた赤鬼」の2編を、板倉がオリジナル要素をふんだんに盛り込み、新たな物語として紡ぎ出した本書。収録されている「桃太郎」をモチーフとした短編『パーフェクト太郎』は、2019年に公演された朗読劇の脚本をパワーアップさせて小説化したもの。さらに、中編『新訳 泣いた赤鬼』を本書のために書き下ろしました。

そんな2作品に華を添えるのは、『I’ll(アイル)』『テガミバチ』などで知られる人気漫画家・浅田氏のイラスト。それぞれの物語を表現した扉絵、想像力を駆り立てられるカバーイラストは、板倉ファンのみならず、漫画・アニメファンも注目の出来栄えです。今回は2人に『鬼の御伽』の制作秘話やこだわりポイント、お互いの印象などを聞きました。

【あらすじ】

『パーフェクト太郎』
ある日、老婆は川から流れてきた桃を拾う。家に帰り、老翁と桃を切ると、その中には赤ん坊が入っていた。桃太郎と名付けた男の子はすくすくと成長。2人が住む村にはある悩みを抱えていた。村を襲う鬼だ。同年代の子どもよりも優れた身体能力を持つ桃太郎は剣術を学び、2人に「鬼退治に行ってきます」と告げる。

『新訳 泣いた赤鬼』
雨の夜に必ず村を襲う妖魔。半郎は、雷閃(らいせん)と岩持丸とともに彼らに戦いを挑んでいた。「人間を食わせろ!」。興奮し、威嚇してくる妖魔たちを前に、武器を手に取った3人は……。

「入り口」は芸人の発想

――板倉さんは2018年の『月の炎』(新潮社)以来、約3年ぶりの新作となりましたが、今回はどんな発想から生まれたのでしょうか?

板倉 いままでの作品は“小説を書こう”と思って書いたんですけど、今回は3割くらい「芸人」が入っているというか……。

「桃太郎」はみんなに浸透している知識だから、そこをスライドさせれば笑いが生まれやすく、これまでネタの題材として多く使われてきたと思うんですけど、『パーフェクト太郎』はもう笑いとかじゃなくて、本気で「桃太郎」を面白くつくり変えてやろうというボケ(笑)。そこまで本気で取り組まなくてもいいじゃん! ていうツッコミが入るほどのクオリティになれば、ボケになるはずだと。なので、入り口は芸人として発想したものですが、中身は小説家として真剣に書いています。

――そんなコンセプトがあったんですね。

板倉 今作『鬼の御伽』はファンタジーなので、自分でルールを決められたので、いちばん楽しんで書けたかもしれませんね。「板倉さんで何かコンテンツをつくりたいです」とお話をいただいたときに「いま在庫は、このパーフェクト太郎しかありません」と言って読んでもらったら、「これでいきましょう」という返答をもらいました。

僕は何かを書くのであれば、1冊の本という形にしたいといつも思うのですが、『パーフェクト太郎』だけでは分量が足りないということになり、だいぶ前から頭の中にあった鬼の物語を書くことにしました。それが『新訳 泣いた赤鬼』です。

ちょうど書いているときに、担当の方に「浅田先生が絵を描いてくれるみたいです!」って教えてもらって、「マジっすか! でも、ちょっと待ってください。『新訳 泣いた赤鬼』のほうも描いてほしいから急ぎます」と(笑)。

――浅田さんは作品を見て、どんな感想を持ちましたか?

浅田 最初、お話をいただいた時、タイトルの『パーフェクト太郎』だけ聞いて、「え?」ってなって(笑)。

板倉 ワケわからないですよね(笑)。

浅田 でも、板倉さんの新作なので信用してましたよ。読ませていただく前に「やります!」ってお伝えして。でも実際に読んでみて、思った以上にハードでビックリしました。先ほど、「芸人の部分もある」とおっしゃっていましたけど、それは本の前に朗読劇があったからですか?

板倉 そうですね。最初は何で発表するとは決まっていない中で『パーフェクト太郎』を書き始めたんですよ。朗読劇をするにあたって、「完璧な桃太郎を作りました『パーフェクト太郎』です」と謳っておいて、本編中に『パーフェクト太郎』の本当の意味が分かるというもので、“一発の笑いのためにどんだけ真剣にやってんだ”って。

浅田 なるほど(笑)。読ませていただいて、『パーフェクト太郎』はもちろん、『新訳 泣いた赤鬼』にもとても感銘を受けて。これはカバーだけでなく、扉絵もぜひ描きたいなと。リモートで、何をどこまで描くか、というところから打ち合わせをさせてもらったんですよね。

板倉 本当にすみません。ギチギチのスケジュールをバールで突っ込んでこじ開けさせてもらいました(笑)。正直、(依頼を)受けてくれるとは思っていなかったですよ。

――板倉さんは、浅田さんからカバーイラストが上がったとき、どんなことを思いましたか?

板倉 データでいただいたんですけど、震えましたね。絵画のような……。浅田先生の作品をきっかけに、僕は美術館に行くかもしれません(笑)。

浅田 そんな(笑)。

戦闘シーンは凝りすぎちゃって(笑)

――それぞれ作中に出てくる好きなキャラクターはありますか?

板倉 これがもし、ほかの形に変えた作品になったときには『新訳 泣いた赤鬼』の雷閃は描いていただきたいですよね……。

浅田 ぜひ。彼は格好良く描いてあげたいですもんね。僕は、やはり半郎に思い入れがあるかな。でも、キャラクターはもちろんなんですが、全体のパッケージが好きですなんです。2つの作品をつなぐようなお話も書き下ろされて、そこも本当に素敵で。1冊として綺麗にまとまっているな、と。タイトルもイメージが広がるし、最高ですよね。『パーフェクト太郎』のままで出たらどうしようかなって思っていました(笑)。

板倉 僕も小説にするときに、“ふざけすぎているかな”と思って、タイトルを変えようとしたんですよ(笑)。

浅田 本のタイトルにしてしまうと、(お笑い寄りなのか、小説寄りなのか)どっちなのかと読者も迷うかなと思ってたんですけど、板倉さんから『鬼の御伽』と聞いて、すべて腑に落ちたというか。

板倉 本当は『新訳 桃太郎』と『もうひとつの泣いた赤鬼』にするべきなんですよ。だから『パーフェクト太郎』に合わせるとしたら、『アナザー泣いた赤鬼』になっちゃう(笑)。ちょっとふざけすぎということで、和の感じでまとめました。

――『パーフェクト太郎』は残したかったと。

板倉 最後まで悩みましたけどね。(朗読劇と)別の作品だと思われたくなかったんですよ。本当に芸人エッセンスを排除するなら変えるべきだったんですけどね。最初のスタート地点となった発想を排除するのもな……って思って残しました。

――個人的には、『パーフェクト太郎』に出てくる戦闘シーンでページが止まりませんでした。

板倉 戦闘シーンは凝りすぎちゃって(笑)。「削ったほうがいい」とは言われたんですけど、とうとう削らなかったですね。僕は文章でも迫力を出したいんですよ。ちゃんと納得のいく勝利にもっていきたいというか。

『機動戦士ガンダム ブレイジングシャドウ』(カドカワコミックス・エース)を書いた時も、「戦闘シーンが長い」という意見もあったんですけど、「興奮できる戦闘シーンを文章で書く」ということから逃げたくなかった……。こうは言っていますけど、ただ苦労して書いた戦闘シーンを、削りたくなかっただけかもしれないです(笑)。

浅田 ディテールが細かくて動きが目に見えるんですよね。だから、漫画やアニメーション的にも想像しやすいというか。たとえ数秒の中の攻防でも、緊張感が半端ないんです。

板倉 鏡の前で「こうするでしょ、相手はこうくるから……」って自分で動きを確認しながら文章にしていきました。“すっ飛ばしちゃえばいいや”ってすれば楽なんでしょうけどね。

――やはり今回も、こだわった部分は戦闘シーンですか?

板倉 全部の作品に言えますけど、仕掛けの部分ですね。やっぱりサプライズを用意したいし、どんでん返しはほしい。これは自分の好みなんですけど、同じ分量を読んだときに、どんでん返しがあったほうがお得な感じがするんですよ。主人公がピンチの状態でワクワクする。ストーリーを書くうえで、そのピンチを納得のいく逆転劇にするのが、いちばん大変だと思うんですよね。

プロじゃないと描けない構図

――お互いについて、もともとどんな印象を持っていましたか? 

浅田 (フジテレビ系のバラエティ番組)『はねるのトびら』をはじめ、ずっとテレビで拝見していましたけど、板倉さんの作るコントってクオリティがめちゃくちゃ高いじゃないですか。小説を書いても同じような細かいディティールやサプライズがたくさんあって。なにより登場人物がどんなに酷いことになっても、ぜったい破綻しないんですよ。読後感が信用できる作家さんという印象でした。

板倉 地道にネタを積み重ねてきてよかったです……。

浅田 板倉さんの小説には、根底に運命的な「哀しみ」や「切なさ」を感じてます。漫画でいえば、『銀河鉄道999』とか『あしたのジョー』とかもそうですけど、登場人物たちがまとっている空気感は、僕みたいな昭和世代には、すごく肌に合うなと思っていました。

板倉 光栄です。浅田さんが描かれている漫画『テガミバチ』も暗い世の中ですもんね。浅田先生の印象は、さっき絵画って表現しましたけど、完璧な絵を描かれる方だなっていうイメージです。イケメンはめちゃめちゃイケメンだし、美人はめちゃめちゃ美人だし。

だから、(浅田氏がキャラクター原案を担当した)アニメ『どろろ』(2019年放送)のキャラクター「百鬼丸」のフィギュア買っちゃいましたもん。今回も浅田さんに絵の相談をさせてもらうときに、引っ張られちゃって“百鬼丸っぽく描いてほしいな”っていうのはありましたね(笑)。

――今回の打ち合わせ中に印象的だった出来事は?

板倉 プロじゃないと描けない構図っていうのがあるんですよ。『新訳 泣いた赤鬼』の構図も、僕が「もし、こんな感じでいければ」って、人間と3体の鬼を描いてお送りしたんですけど、いざ浅田先生の出来上がりと、自分が見せたデータを見比べたときに、自分の絵の下手さが恥ずかしくて(笑)。

こう描いてほしいっていう欲望と、これを捨てたほうがいいものになるんだろうなっていう回路があったので、お伝えするときは支離滅裂だったと思います。

浅田 イメージがあるっていうのは大切ですからね。板倉さんの本なので、きちんとお伺いしたほうが寄り添えますし、いいバランスになったかなって思います。

小説が苦手な人も読んでほしい

――浅田さんは、こうした依頼を受けて絵を描くときに気を付けている点はありますか?

浅田 自分の作品ではないので、どれだけ自分の中で咀嚼して出せるのか。完全に寄っちゃってもダメだし、自分のものだけになってもダメなので、いいバランスで寄り添えられるかどうかですね。絵を見てイメージが広がるようになれば、僕も気持ちよくなれますので、そこは気をつけています。

板倉 大先生なわけですから、「俺の好きなように描くよ」って言われてもおかしくないんですけど、めちゃめちゃ気を使ってくださるんですよ。

浅田 やめてください(笑)。今回、(カバーと扉絵2枚で合計)3枚描くので、色味に変化をもたせました。その中でもカバーはすごく力が入りましたね。

板倉 ずっと見ていられますよね。美術館で作品をじっと眺めている人っていますけど、こういうことなんだなって初めて分かりました(笑)。

――もし、2人でストーリーを作るとしたらどんな作品がいいですか?

浅田 板倉さんの作品だったら、なんでも描きたいですよ。『月の炎』、描いてみたいです。

板倉 お~。漫画化されたときは、ぜひ描いていただきたいです!

――最後に本作の見どころを教えてください。

板倉 見どころはカバーじゃないですか(笑)? 浅田先生の絵があるので想像しやすいですし、文字で読む漫画のような感じで、小説が苦手な人も読んでもらえるといいですね。かと言って、小説好きな人にも“これは引っかかるだろう”ということはやっていると思います。売れてほしいですね。印税で地方に土地を買いたいです。そしたら表札を浅田先生に描いていただこうかと(笑)。

浅田 物語はもちろん、1冊の本としてすごく高いクオリティですし、僕の漫画や携わったアニメなどが好きな人は大好きだと思います。切なくてハードな、板倉さんらしいエンターテインメントに仕上がっているので、たくさんの方にオススメしたいですね。

書籍概要

『鬼の御伽』(ⅡⅤ)

発売日:1月25日
著者:板倉俊之
装画:浅田弘幸
定価:1,760円(本体1,600円+税)
発行:ドワンゴ
発売:KADOKAWA

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