吉本興業は21日、NTTグループの持ち株会社「日本電信電話」(NTT)と共同で、インターネット上で教育分野を中心としたコンテンツを配信する国産プラットフォーム事業「Laugh & Peace_Mother(ラフ・アンド・ピース・マザー)powered by NTTGroup」を始めることを発表しました。

4月中にも那覇市内に事業運営会社を設立し、10月以降に事業を開始します。海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)からも段階的に最大100億円の出資を受ける予定で、オールジャパンの枠組みが整いました。
吉本興業が、アジア戦略の一環として昨年4月に公表した「沖縄アジアエンタテインメントプラットフォーム構想」が実現に向けて動き出します。

「世界に誇れる遊びと学びのコンテンツを」

沖縄県内で開催された「島ぜんぶでおーきな祭 第11回沖縄国際映画祭」の最終日に開かれた会見では、吉本興業の大﨑洋会長、NTTの澤田純社長、そしてクールジャパン機構の北川直樹社長が登壇し、この構想の意義を語りました。

「『マザー』は『お母さん』です。どんな子どもでも大きく包み込んでくれる、そんなプラットフォームになったらいいな、と思っています。ドラマでも、バラエティでも、ハリウッド映画でもなく、新しくゼロからつくる世界に誇れる遊びと学びのコンテンツです。」

最初に大﨑会長がこう挨拶すると、NTTの澤田社長も「国内では来春から『5G(第5世代移動通信規格)』が始まり、技術も進化している。現在の“平均値”で教える教育ではなく、1人ひとりに合った教育コンテンツができる構造になりつつあります。子どもたちに新しい世界を広げて、豊かな社会をつくっていきたい」と意気込みを語りました。

さらにクールジャパン機構の北川社長も、「資格や受験のための教育ではなく、遊びながら学ぼうという会社です。新しい視点、新しい形で日本、世界に届けていく。日本初の試みですが、ぜったいに面白いことができる感じがしています。いまやらなければ、誰がやるのか。クールジャパン機構としても大応援していきます!」と期待感を語りました。

リアルに体感できるアトラクション施設も

那覇市内に設立される事業運営会社「ラフ&ピース マザー」(生沼教行社長)では、吉本興業のエンターテインメント事業とNTTグループの情報通信技術(ICT)、さらにはクールジャパン機構の海外事業支援のノウハウなどを連携させ、国内外で市場が急速に拡大している教育分野を中心に、日本発の良質なコンテンツやアプリを制作、配信していきます。
そして将来的には、ほかのメディア企業やコンテンツ制作会社などとの連携を進め、多様なコンテンツやアプリを多言語に翻訳し、日本国内だけでなく、アジアを中心とした海外に広く展開していきたいと考えているとのこと。

新会社のコンセプトは「遊びと学び」。最先端の技術を活用したインタラクティブ性のある動画コンテンツやゲーム、AR・VRアプリなどを制作し、子どもたちが、身近な生活の知恵や、さまざまな角度で物事をとらえる視点、プログラミング教育などに必要なロジカルシンキングなど、これからの時代に必要な知識を自然に身につけられるようにします。そして、こうしたサービスを提供することで、能動的に考え、行動できるグローバル人材を育成していきたい、としています。

また、こうしたコンテンツ・アプリ制作、配信事業のほかに、その世界観をリアルに体感できるアトラクション施設を沖縄県内に開設する計画も公表されました。
プラットフォームが配信するコンテンツやアプリと連動させ、エンターテインメントと最先端のICTを融合させたアトラクションなどを揃えることで、国内外からの観光客を呼び込み、沖縄の地域振興に寄与したい考えです。

「チコちゃん」プロデューサーも参画

コンテンツ制作にかかわるのは、日本各地で子どもたちに学びのワークショップを展開している「CANVAS」と、NHKの人気クイズバラエティー「チコちゃんに叱られる!」などで知られるプロデューサー、小松純也氏。

CANVAS社長でデジタル絵本作家の石戸奈々子氏は、「これまでの教育は、どれだけ知識を得たのかということでしたが、いまは世界中の多様な価値観、文化の人と協業しながら新しい価値をつくる力が求められています。記憶型の教育から、思考・想像型の教育に変わります。」と指摘したうえで、「IT技術やAIが社会を変え、教育を刷新する時代にきています。子どもだけでなく、社会全体で面白く楽しく学ぶ、それを実現するのがこのプラットフォームです」と語りました。

また、小松氏は、「いまテレビ屋、ゲーム屋、アプリ屋、教育ワークショップの人たち、そして芸人も含めたチームで、番組なのか、ゲームなのか、アプリなのか、どれとも言えない、カテゴライズのできないものをつくっています」と語ったうえで、「すでに100以上のコンテンツを制作進行中」と明かしました。

進行中のアイデアは、たとえば…

・子どもたちが朝起きてから学校へ出かけるまでの出来事を社会的背景まで深掘りできる「おうちto the world」
・子どもが自分たちの街を知る「住みます芸人と一緒に街づくり」
・自分たちのオモシロ短文を投稿する「『とはいえ』大喜利」
・自分たちの描いた絵がネット上で交流する「おえかきLIVEフィールド」
・バーチャルな学芸員がいろいろ教えてくれる「世界最高の美術館」
・文字どおり著名人たちの“十八番の話”が聞ける「スゴイ人たちのオハコ話」

小松氏は「『学び』とインタラクティブはフィットします。子どもにも大人にもトキメキを大切につくっていきたい」と意気込みを語りました。

「黒船」「赤船」に対抗する

吉本興業が国産プラットフォーム構想にこだわり、それを推し進めるのは、日本の現状に「危機感」があるからです。
エンターテインメントの世界は、これまで米国が圧倒的な存在感を持ち、21世紀に入ると中国の台頭が顕著に見られるようになりました。そしてネットではいま、Netflix、Hulu、アマゾンといった外資の動画配信サービスが急速にシェアを拡大させています。

「こうした黒船、赤船がきているなか、日本には世界に向けて発信する国産の動画配信プラットフォームがありません。なんとか国産プラットフォームをつくって、日本で優れたコンテンツをつくるクリエイターたちに(利益の)適正配分をすることができないか。そして、世界の子どもたちに夢を届けるプラットフォームをつくることはできないか。そう考えてやって来ました。」と大﨑会長は語ります。

吉本興業は近年、次の100年を見据えて「地域」「アジア」「デジタル」をキーワードに掲げ、さまざまな取り組みを進めてきました。
一見バラバラに見えるこれらのプロジェクトは、いま一つの流れになりつつあります。

基本となるのは「人材育成」です。吉本興業は2018年4月、国際的に通用するエンターテインメント人材を育成するため、那覇市に「沖縄ラフ&ピース専門学校」を開校しました。
さらに2020年3月には中国で、現地の大手メディア投資ファンド「華人文化グループ(CMC)」と共同でエンターテインメント専門学校を開校する予定です。
一方で、2014年にインドネシアに「MCIPホールディングス」を設立し、アジア7カ国・地域に「住みます芸人」を派遣。
日本の芸人たちが現地でさまざまな活躍の場をつくり出しています。

そして将来的に、こうした人材がつくり出すコンテンツの「出口」となるのが、4月8日に発表したアジア最大の動画配信サービス「iflix(アイフリックス)」との協業であり、今回の国産プラットフォーム構想であると言えます。

こうした分野に吉本興業が進出することは、国内のテレビ局など大手メディアやアプリ制作会社などさまざまなコンテンツ会社が新しいマーケットに乗り出すきっかけにもなり得ます。

吉本興業が、世界に通じるプラットフォームをつくることができるのか。大﨑会長は「イメージとしては、竜巻のようにうねりながら、いろんな人、いろんなものを巻き込みながら進んでいきたい」と語りました。